(5)逆解析

SPAC法で位相速度を解析した曲線のデータを用いてfGAによる逆解析を実施し、中・小の2セットアレー17地点のS波速度構造を求めた。

図2−53−1にNo.16(KRG)地点における中・小2セットアレーのfGAによる逆解析の結果(解析1ブロック長204.8秒)を示す。図中上段はfGA探索を実施した10個の候補解を示し、図中下段はこれら10個の候補解から選んだ最適解(観測値と計算値との差、つまり残差が最小である候補解)を示すものである。fGAによる逆解析においては、平成11年度に実施した大アレーの位相速度曲線も統合した結果を用いて実施した。これら17地点のS波速度構造の結果については、別冊資料集に各地点ごとにそれぞれ付した。

逆解析の初期モデル(層数、探索範囲等)の設定は、平成10・11年度に実施したNo.25(SMU)、No.26(FNB)の2地点および大・中・小3セットアレーの7地点、計9地点の解析結果を参考とし、初期モデルの出発点を6層構造と設定してfGAによる逆解析を実施した。逆解析において位相速度曲線とのフィッティングを行う場合、例えば観測値と計算値との差(残差)が極端に大きい場合など、6層構造の初期モデルが適切ではないと判断した時には、1層多い7層構造の場合、あるいは1層少ない5層構造の場合を考え、再度、逆解析を実施し、位相速度曲線に最適なフィッティングをとる最適解を求めた。また、観測値と計算値とのフィッティングの具合から、初期モデルで設定した6層構造よりも1層少ない5層構造で最適解を求めた地点は、平成11・12年度実施地点のうち、No.15(CNT)、No.21(KHK)およびNo.24(NDA)の3地点となった。平成12年度の初期モデル設定については、前掲した表3−1の位相速度曲線形状のパターン分類を参考とし、パターン別に3種類の初期モデルを採用することとした。

表2−11−1表2−11−2および表2−11−3に、3種類のパターン分類ごとのfGAによる逆解析の初期モデル(各層の深度およびS波速度の探索範囲)をそれぞれ示す。

平成12年度のfGAによる逆解析の計算回数は、平成11年度と同様、試行回数10,000回の演算を10回実施する解析方法で実施した。試行回数が多くなったことにより、位相速度曲線の収束具合が向上し、フィッティングも良くなった。

平成11年度に実施した9地点において、大アレーの解析ブロック長による違い(解析1ブロック長が204.8秒の場合と409.6秒の場合とを比較した結果)は、低周波数領域における位相速度に大きく関係することがわかっており、解析1ブロック長409.6秒の方が、低周波数側の分散曲線において位相速度の曲線の傾きが大きくなり、結果として求めるS波速度が速くなる傾向があった。平成11年度においては、最下層とした基盤のS波速度の把握に固執しなければ、中・小アレーの解析に供する1ブロック204.8秒での解析長が大アレーにも適用できるとして、1ブロック長204.8秒の場合のS波速度、深度を提示したが、平成12年度は全26地点における微動アレー解析のコントロールデータとして供したNo.25(SMU)地点下総地殻活動観測井の既存資料(VSP探査の結果など)から、基盤のS波速度および深度を適切に求めるためには、解析1ブロック長を409.6秒とした方が位相速度曲線とのフィッティングも良い結果であったため、大アレーの解析においては1ブロックあたり409.6秒の長さのデータを採用することと決定した。

図2−53−2にNo.16(KRG)地点における大アレーの解析1ブロック長409.6秒の、fGA探索10個の候補解(図中上段)および最適解(図中下段)を示す。

ここで、最適解の決定に際しては、当初、観測位相速度曲線にフィッティングの良い10個の候補解の中から、残差(観測値から計算値を差し引いた値)が最小である解を最適解として選定したが、各調査地点の周囲の結果や既存地質資料等を考慮した場合、「残差最小である解が必ずしも最適な解でないことがある得る」結果であったことから、最適解には10個の候補解の中から隣接する調査地点の結果、既存資料(地質、反射等)の結果を考慮し、これらの結果と最も整合性がとれる解を選択することとした。図2−53−2で示した最適解は、前述した経緯により決定したものである。図2−54−1図2−54−2図2−54−3図2−54−4図2−54−5図2−54−6図2−54−7図2−54−8図2−54−9図2−54−10図2−54−11図2−54−12図2−54−13図2−54−14図2−54−15図2−54−16図2−54−17図2−54−18図2−54−19図2−54−20図2−54−21図2−54−22図2−54−23図2−54−24図2−54−25図2−54−26に、全26地点のfGA探索結果(大アレーの解析1ブロック長409.6秒で実施した結果)をそれぞれ付した。

表2−12−1に全26地点におけるS波速度の一覧を、表2−12−2に基盤深度の一覧をそれぞれ示す(大アレー解析1ブロック長409.6秒)。なお、平成11年度に実施したNo.1(TDL)、No.6(MKH)、No.10(YAG)、No.15(CNT)、No.17(NGC)、No.21(KHK)、No.24(NDA)、No.25(SMU)およびNo.26(FNB)の9地点の結果については、平成12年度に再検討した最適解となっている。