(3)解析方法

解析作業は、@位相速度の推定と、AS波速度構造を推定する逆解析、の大きく2つに分けた。

@位相速度の推定

図2−40に示したフロ−に沿って位相速度の推定を行った。解析諸元は次のとおりである。なお、解析の過程では全データの解析区間を多数の小時間単位のブロックに分割し、各ブロック毎に所定の推定量(空間自己相関関数および係数)を求め、それらを平均するいわゆる「ブロック平均法」を採用した。ブロック平均法は、時系列解析で各種推定値を求める際、それぞれの分散(variance)をできるだけ小さくするために広く用いられている。

また、極小アレー観測に関しては取得したデータが加速度であるため、速度のデータに変換(時間積分を実施)してから解析を実施した。

・デ−タ編集:10Hz(100ms)へのリサンプリング(高周波ノイズを取り除くために実施)

極小アレー観測のうち、最大アレー半径48mのデータは20Hz(50ms)に、これ以外の極小アレー観測のデータは50Hz(20ms)にリサンプリング

・観測デ−タ長:60分間以上

・ブロックデ−タ長:204.8秒

※昨年度の解析結果をふまえ、中・小アレーは、1ブロックデータを204.8秒で解析を実施した。

・最大ブロック数:19個(4.8秒オーバーラップ)

・スペクトル分解バンド幅:

  中・小アレーでは0.05Hz〜0.1Hz(パルゼンウィンドウ)

  極小アレー観測では0.16Hz〜0.39Hz(パルゼンウィンドウ)

・座標入力:各調査地点の位置座標を1/2,500地形図から読みとる

・パワ−スペクトルおよびクロススペクトル計算:原デ−タの先頭、中間および最後部のパワ−スペクトル計算による時空間定常性の確認とノイズ区間除去後のデ−タによるスペクトル計算

・空間自己相関関数および空間自己相関係数の計算

・位相速度の推定:アレ−サイズ別に空間自己相関係数の曲線形から位相速度推定に採用する周波数範囲を決定した。すなわち、

(a)周波数の上限は、アレ−が見分け得る最短波長を最小のアレー半径の2倍と仮定し、それに対応する周波数(すなわち、空間自己相関係数=J0(π)≒ −0.30となる周波数)か、あるいはそれが不明瞭なデータの場合、空間自己相関係数が初めて極小(理論的には、空間自己相関係数≒−0.40)となる周波数とした。

(b)周波数の下限は、空間自己相関係数が示す最も低い周波数としたが、空間自己相関係数が周波数の減少とともに単調に減少する場合は、その減少し始める周波数とした。

平行層で近似することが適当でない複雑な地下構造の場合、同じアレ−サイズでもアレーの展開位置により空間自己相関係数に有意な差の生じることがある。今回の解析の場合は、アレーサイズ別にこれらの曲線から直接位相速度を求めた。また、同じアレーのうち、各地震計間の距離毎の空間自己相関係数のフィッティングを行い、距離別の位相速度を求める方法も採用した。ただし、空間自己相関係数に有意な差のなかった場合はそれらを平均化し位相速度を求めた。

各アレ−ごとに求められた分散曲線をまとめ、位相速度曲線を決定した。

極小アレー観測では、波長が最大相関距離の5倍以下となるデータを採用した。

また、No.25(SMU)地点のみ小アレーデータの一部を併用して実施した。

AS波速度構造を推定する逆解析

逆解析はアレ−直下の構造が平行層であると仮定し、fGAによる逆解析を用いてS波速度構造を求めた。

fGAによって求められた候補解の中から最適解を選出するにあたっては、

1)理論分散曲線が観測位相速度とフィッティングの悪い候補解があれば、それを除く

2)既存資料(反射法、ボーリング検層等)が参照できる観測点では、それとの整合性を考慮し、他の観測点では各観測点における(基盤深度などの)値の空間的バランス等を考慮して決定する。

という手順で行った。逆解析のフローを図2−44に示す。