・大アレーの半径を2,000mとして追加観測を行った。この結果、昨年度に半径1,000mで求めた基盤のS波速度と本年度の結果とは差が見られ、本年度は昨年度よりも大きな値を示した。これはアレーサイズを大きくしたことで、長周期成分の波を捉えることができたためであると考えられる。言い換えれば、同じ周波数におけるベッセル関数のフィッティングにおいて、解析に供する距離のデータが大きくなったことにより、関数へのあてはめが適切となり、位相速度が大きく求まり、その結果基盤のS波速度が大きくなったものと考える。
・大アレー解析時の1ブロック長を204.8秒と409.6秒の2種類の長さで実施した。解析時の1ブロックの長さを変えると位相速度の分散曲線の形状が、0.2Hz以下(5秒以上)より低い周波数領域(長周期側)において変わり、1ブロック長409.6秒の方が位相速度が速く求まった。観測結果と既存資料との比較・検討を行う場合、最下層の深度や上位層の深度およびS波速度の比較・検討を行う場合には、全地点において1ブロック長204.8秒の結果を用いることで統一した。
・逆解析の結果について微調整を行い、位相速度曲線に最もフィッティングの良いと判断するようなS波速度および構造を推定した。この微調整後の結果について、昨年度の結果と比較すると、層数は同じ6層構造モデルであり、各層の深度および最下層を除いたS波速度は、ほぼ同じ値を示した。ここで、基盤のS波速度と上位層との関係を調べるために、基盤の深度を仮に1,500mと固定させ、基盤のS波速度を2.5km/sec、3.0km/sec、3.5km/secの3通りの場合を想定して解析を試みた結果を図3−6に示す。この結果から、解析上、基盤のS波速度の相違は上位層の深度およびS波速度にはほとんど影響を及ぼさないことがわかった。すなわち、解析に供する1ブロック長が変わる場合、あるいは基盤のS波速度が未確定である場合においても、最下層よりも上位層の深度、S波速度には再現性があるということが明らかとなり、求めた結果について安定した解で決まることがわかった。ただし、現時点では最下層のS波速度について確定することは困難である。
・fGAによる探索については当初、昨年度と同じパラメータである試行回数1,000回の演算を5回行い5つの候補解を計算する方法で行ってきたが、可能な限り良質の候補解を求めるため、試行回数を10,000回と10倍に増やし、演算も10回と2倍にして行った。また、探索範囲も細かく設定するなどして位相速度曲線に最適なフィッティングとなる10個の候補解を求める方法を採用した。図3−7にNo.25(SMU)地点における試行回数と残差(観測値−計算値)を示す。
・昨年度に解析した位相速度曲線上には、低周波数領域(長周期側)で位相速度が減少するような傾向、いわゆる「拝み」の現象の傾向が現れていたが、本年度の解析結果である統合後の位相速度曲線においてその傾向が見られなくなった。本年度の観測では、周波数0.16Hz〜0.15Hz(周期6.2秒〜6.5秒)までの低周波数領域(長周期側)にある波を捉えることができた。
・既に示した図2−61および図2−62の既存資料(VSP探査、S大砲)データで求めた計算位相速度曲線と観測位相速度曲線の比較において、解析した位相速度曲線の形状は、VSPデータ、太田S大砲データ、微動データの3種の結果とも、基盤のS波速度を除くとよく似た形状を示した結果であった。これより、微動アレー調査における現地観測のデータ、およびこのデータを用いた解析結果は、他の物理探査手法で求めた結果と整合性があるということが言える。また、平成10年度に実施したS波の反射法地震探査結果と今回の微動アレー調査結果とを対比させると、深度610mまでの境界面までは、微動アレー調査で求めた地質の境界付近に反射面が対応するような結果が得られた。
・昨年度から既存資料との対比を実施してきたNo.25(SMU)地点の比較・検討の結果をふまえ、他の地点における解析方法は、No.25(SMU)地点を基準として実施した。