(2)解析方法

解析作業は位相速度の推定とS波速度構造を推定する逆解析の大きく2つに分けた。

@位相速度の推定

図2−48に示したフロ−に沿って位相速度の推定を行った。解析諸元は次のとおりである。なお、解析の過程では全データの解析区間を多数の小時間単位のブロックに分割し、各ブロック毎に所定の推定量(空間自己相関関数および係数など)を求め、それらを平均するいわゆる「ブロック平均法」を採用した。ブロック平均法は、時系列解析で各種推定値を求める際、それぞれの分散(variance)をできるだけ小さくするために広く用いられている。

・デ−タ編集 :10Hz(100ms)のリサンプリング(高周波ノイズを取り除くために実施)

・観測デ−タ長:小、中アレー:60分間

          大アレー  : 120分間(60分×2回)および

                   240分間(120分間×4回、テスト1地点で実施)

                   アレーサイズによって観測データ長を変えた

・ブロックデ−タ:小、中アレー:204.8秒

           大アレー   :204.8秒および409.6秒の2通り

 ※昨年度の解析結果をふまえ、長周期成分のデータを取得した

 ※アレーサイズ(大アレー)は、ブロックデータを従来の204.8秒と409.6秒の2通りで主に解析を実施した。また、テスト1地点で1ブロック長819.2秒で解析を実施

・最大ブロック数:ブロックデータ204.8秒:34個(48サンプルオーバーラップ)

           ブロックデータ409.6秒:19個(96サンプルオーバーラップ)

・スペクトル分解バンド幅:0.05Hz〜0.1Hz(パルゼンウィンドウ)

・座標入力: 各観測点の位置座標を1/2,500より読みとり距離計算

・パワ−スペクトルおよびクロススペクトル計算:原デ−タの先頭、中間および最後部のパワ−スペクトル計算による時空間定常性の確認とノイズ区間除去後のデ−タの計算

・空間自己相関関数および空間自己相関係数の計算

・位相速度の推定:

アレ−サイズ別に空間自己相関係数の曲線形から、位相速度推定に採用する周波数範囲を決定した。すなわち、

(a)周波数の上限は、アレ−が見分け得る最短波長を最小のアレー半径の2倍と仮定し、それに対応する周波数(すなわち、空間自己相関係数=J0(π) ≒−0.30となる周波数)か、あるいはそれが不明瞭なデータの場合、空間自己相関係数が初めて極小(理論的には、空間自己相関係数≒−0.40)となる周波数とした。

(b)周波数の下限は、空間自己相関係数が推定されている最も低い周波数としたが、空間自己相関係数が周波数の減少とともに単調に減少する場合は、その減少し始める周波数とした。

平行層で近似することが適当でない複雑な地下構造の場合、同じアレ−サイズでもアレーの展開位置により空間自己相関係数に有意な差の生じることがある。今回の解析の場合は、アレーサイズ別にこの曲線から直接位相速度を求めた。また、同じアレーのうち、各地震計間の距離毎の空間自己相関係数のフィッティングを行い、距離別の位相速度を求める方法も採用した。ただし、空間自己相関係数に有意な差のなかった場合はそれらを平均化し位相速度を求めた。

各アレ−毎に求められた位相速度を統合し、最終位相速度を決定した。

AS波速度構造を推定する逆解析

求められた位相速度の分散はレイリ−波の基本モ−ドであり、またアレ−直下の構造が平行層であると仮定して1次元のS波速度構造を求めた。

逆解析には、個体群探索分岐型遺伝的アルゴリズム(長ほか,1999、以下「fGA」と称する)を用いた。図2−49に逆解析のフロ−を示す。

P波速度および密度値についてはLudwig,Nafe and Drake(1970)の関係式を利用してS波速度値から換算した。