3−1−5 まとめ

今回、以下の方法によりP波の速度構造を推定した。

・P波反射法測線の速度解析から求まった基盤より上位の2次元P波速度構造

・S波反射法測線の速度解析から求まった基盤より上位の1次元P波速度構造

・屈折法解析(初動および後続波)を利用したレイトレーシング法による基盤上部を含めた2次元P波速度構造

また、次の2種類の坑井データを検討した。

・下総観測井でのP波速度検層記録

・下総観測井でのVSPからのP波速度構造

S波については以下の方法による速度構造を推定した。

・S波反射法測線の速度解析から求まった基盤より上位の1次元S波速度構造(インパクターの結果とミニバイブの結果に若干差異がある。)

・微動アレー調査からのS波速度構造(SPAC法、F−K法)

また、次の坑井データを検討した。

・下総観測井でのVSPからのS波速度構造

各種手法で求まったP波の速度構造を図3−7に示す。

P波反射法地震探査により、調査地域での基盤岩上面までの堆積構造が明らかになった。P波速度については、速度解析の結果(図2−33 参照)として基盤岩上面までの速度が求まっている。

ここに示した反射法重合速度は、時間軸上で行なった解析結果を深度に変換したものである。もともと時間軸上の区間速度を、走時時間とともに増大する速度で深度変換しているため、深い深度ほど深度方向の精度が荒くなる点に留意する必要がある。

反射法重合速度とVSPおよび音波検層区間速度は、基盤深度までおよそ一致している。細部の違いについては今後検討する必要があるが、現在は手法による精度の違いと考えている。

重合速度と屈折法から求めた速度は、2次元的な分布を比較することができ、おおまかな傾向は一致しているが、絶対値は必ずしも一致していない。これについては今後の検討が必要である。

基盤岩内部のP波速度については、屈折法の解析から求まった結果(タイムターム法(図2−46)およびレイトレーシングモデル(図2−47)から約5.7km/s)と坑井のデータ(約5.1km/s)が異なる値を示している。現在、この速度の違いに対する明確な説明は与えられていないが、基盤のP波速度については、観測誤差とは考えにくい。通常、速度の違いの原因として上げられるのは、弾性波の周波数による速度の違い(分散)である。今回はVSP(数10Hz)と音波検層(数10kHz)の速度がほぼ一致しており、VSPと屈折法地震探査の震源は同じバイブロサイスであることから、この影響は考えられない。

この現象を説明するものとして、たとえば、岩石の異方性、屈折波が基盤上面ではなくより下位の高速度部分を選択的に進む、などの可能性があげられる。

次に、各種手法で求まったS波の速度構造を図3−8に示す。

S波反射法地震探査は、堆積構造を求めることが目的ではないが、ほぼ基盤深度(約1500m)までの堆積構造および約1000mまでの深度のS波速度構造を求めることができた。

既存の下総観測井のVSPデータ解析からは、初動の不明瞭な基盤上面付近をのぞき、基盤内部までのS波速度が求まっている。

微動アレー調査の結果(2種類)も、深度1200m以浅では有意な違いは見られない。これは反射法地震探査の重合区間速度とも整合的である。基盤直上(1200m以深)までのS波速度については、F−K法とSPAC法で違いが見られる。

基盤内部のS波速度については、VSPデータ解析で約3.0km/sという速度が求まっており、現時点ではこれがもっとも信頼できる値と考えられる。この図には含まれていないが、微動アレー調査の船橋地点での再解析では、基盤内部のS波速度として深度2380mに2.95km/sが得られている。

P波速度とS波速度の関係は、VSPの区間速度、およびS波測線の重合速度(P波処理とS波処理)から求めることができる。図3−9にこの関係を示す。重合速度は、時間から深度に変換した場合、P波とS波の速度を解析している深度にややずれが生 じるが、P波速度の求められた深度を基準として、S波速度を線形内挿により算出した。

山水・他(1999)の下総観測井の結果や、府中観測井での結果(浅野・他,1991; 井川・他,1992)によるとVp/Vs比は、深度が増大するにつれて一定値に収束する傾向が見られる。VpとVsの関係は、両坑井においてほぼP波速度1.6km/s〜3.0km/sあるいはS波速度0.4〜1.4km/sの範囲内では、ほぼ線形の関係式で近似できるようである。下総観測井では、P波速度1.65〜2.4km/sの範囲で

Vs = 0.90×Vp − 1.08 (km/s)

という近似式が求められた(図3−9参照)。重合速度から算出した区間速度の関係も、この近似式とは大きく食い違わない。

今回の調査結果からは、P波速度が1.6km/sより遅い範囲については、P波速度とS波速度の相関性は認められず、深度300〜400m程度までのS波速度を求める必要がある。この深度までのS波速度構造はインパクター・ミニバイブ等を震源とするS波探査で求められることが分かった。ノイズが少なく十分な受振器展開長が得られれば深度1500m程度までのS波速度構造が得られるであろう。