・下総地点において、得られた位相速度の周波数(周期)範囲は、SPAC法では0.14Hz(7秒)から3Hz(0.33秒)まで、F−K法では0.25Hz(4秒)から1.3Hz(0.77秒)までであった。また逆解析を行った結果、推定されるS波速度構造は、SPAC法では最下層として深度1,520mに2.0km/secのS波速度を、F−K法では最下層として深度約1,400mに1.80〜2.50km/secのS波速度(便宜上、2.35km/secを一つの解としている)をそれぞれ推定することができた。
・船橋地点において再解析を行った結果、得られた位相速度の周波数(周期)範囲は、0.13Hz(7.7秒)から2Hz(0.5秒)までであった。また、逆解析によって最下層として深度2,380mに2.95km/secのS波速度を求めることができた。
・下総地点で求められた最下層のS波速度は、SPAC法及びF−K法ともにアレーサイズと推定可能な位相速度の最大波長の関係から判断すると、真のS波速度とは断定し難い。このことは、これまで言われていた対象深度の1/5程度のサイズでは最下層のS波速度を求めることが困難であると考えられる。VSP記録から求めたS波速度と比較すると基盤の上位層までは、ほぼ同じ値を示している。
・F−K法はSPAC法と比べて求められる位相速度は周波数範囲が狭く、かつばらつきが大きい。そのため、どの位相速度を採用すれば良いか決めるには、S波検層結果や大深度屈折法探査結果等の先見的情報がないと非常に困難となる。また、F−K法の場合、アレ−サイズをSPAC法で求められた位相速度の周波数範囲と同等にするには、十字の長軸が円形アレ−半径の3〜4倍、円形アレ−で考えても2倍程度のサイズが必要となろう。ただし、F−Kスペクトルの縮長(縮退)現象により、位相速度が真の値より大きく求まるというリスクを伴う。
・固有周期が7秒の地震計2種類(レナーツ、MTKV)と固有周期8秒の地震計1種類 (PELS)の比較観測を行った結果、ハドルテストにおいてレナーツ地震計が最もスペクトルの安定性、位相の一致性やコヒーレンスが良く、次いでMTKVであり、PELSは長周期側にばらつきが見られた。また、本観測で得られた位相速度の分散曲線は各地震計で一致しており、求められた周波数範囲はレナーツが最も低い周波数までのびている。さらに、地震計の設置手順、操作方法、設置に要する時間等の作業性の効率から判断すると、レナーツの地震計が観測に適したものであるといえる。
これらの点から微動探査法で用いる地震計については、固有周期5〜8秒の範囲であるなら、レナーツが最適であり、これとは別に微動のパワ−とアレ−サイズにも注意する必要がある。
・最も大きなアレーサイズのデータから位相速度を求める場合、船橋で行った再解析を参考にして考察すると、周波数別にアレーサイズ(距離)を変数とする空間自己相関係数に最適のベッセル関数を当てはめる方法より、アレーサイズ別に周波数を変数とする空間自己相関係数の曲線から直接求める方法、すなわち空間自己相関係数をベッセル関数の逆関数の独立変数として直接求める方法のほうが有効であることがわかった。
・地下浅部から深部に至る地下構造の推定にはアレ−サイズを複数組み合わせる方式が最適であることが確認された。本地域で基盤深度までのS波速度構造を把握するために適するアレ−サイズの組み合わせは、図4−1の千葉県地域における代表的な分散曲線と適切な観測アレー半径に示すように、分散曲線を標準曲線として試算すると外側半径2000m、600m、200mの計3回観測が必要である。
・気象との関連について、観測微動の卓越周期は4〜5秒程度で観測時の海洋波浪の周期約7〜10秒の1/2程度であることが確認できた。
・微動探査法は、野外での作業時間が従来の種々の物理探査法と比べ相対的に短く、デ−タ処理・解析も地震探査法より短時間かつ簡便にできる。
また、自然を傷めることなく、環境問題に制約のあるような市街地等での探査に有効であり、さらにS波速度構造を直接的に求めることができるなど、強振動予測のための基礎資料を得る調査手法としても有効であると考察される。