(3)再解析の方法

具体的には一連の解析過程で参考に留めていた「距離一定で周波数を変数とした空間自己相関係数から直接求めた位相速度デ−タ」(図2−74)を再検討した。

このデ−タを参考に留めているのは、複雑な地下構造を平行成層構造で近似せざるを得ない表面波利用の方法に起因している。実際には、アレ−直下の地下構造の多くは平行成層構造からずれていると考えられるが、現在、表面波の位相速度について理論計算が可能なのは平行成層構造だけであるため、これをできるだけ物性定数(P波、S波速度など)の等価な平行成層構造で近似することにしている。その場合、注意すべきことは平行成層構造からのずれのできるだけ少ない広がりにアレ−を展開することであるが、一般に構造未知の状態でこれを予想することは難しい。そのため実際には「浅部の構造は小さいアレ−で」、「深部の構造は大きいアレ−で」と対応深度に応じてアレ−サイズを区別するようにしている。大きさの異なる各アレ−からのデ−タの解析結果は相互に評価され、浅部から深部まで比較的平行成層からずれが小さいと考えられる場合は、これらのアレ−サイズを区別せずに統合して解析する。具体的には、「周波数を一定とし、アレ−サイズ(距離)を変数とした空間自己相関係数に最適のベッセル関数を当てはめること」(図2−73)である。

今回の一連の解析は以上のような統合解析によっているが、この「ベッセル関数の当てはめ」は、一連の解析過程でも重要な部分を占める。この操作は空間自己相関係数デ−タのスム−ジング化に相当し、結果的には平行層からわずかにずれているかもしれない地下構造を平行層近似する操作と等価である。

この重要なスム−ジング化について、実は「距離一定で周波数を変数とした空間自己相関係数」のデ−タの場合、現在良い適用法が開発されていない。一連の解析過程でこの空間自己相関係数から推定される位相速度デ−タを参考に留めている理由はこういうことにある。

しかし現在のこのスム−ジング化を取り入れた統合解析のアルゴリズムは多量のデ−タを短時間で効率的に解析できる利点を持つ一方、次のような欠点もある。

すなわち「ベッセル関数の当てはめ」において低周波数領域では相対的に推定精度の低い小アレ−デ−タからの係数を相対的に精度の高い大アレ−デ−タの係数と同等に評価してしまう、また高周波数領域では逆に相対的に精度の低い大アレ−デ−タからの係数を相対的に精度の高い小アレ−デ−タからの係数と同等に評価してしまう、等の欠点がある。これは、一連の解析過程における重要な点である。得られる地下構造の「@深い方は浅い方の影響を受けている」、逆に「A浅い方は深い方の影響を受けている」ことになるからである。

現在Aの問題は、解析過程で回避できるよう工夫されているが、@の問題は不十分である。今後はこの解析法を改良する必要があるが、再解析では、特にこの点を重視して見直しを行った。

具体的には、上に述べたように一連の解析過程で参考に留めている「周波数を変数とした空間自己相関係数から直接求めた位相速度」に対して、周波数領域とアレ−サイズの関係、すなわち前述@式を考慮してその取捨選択を行った。その対象となった位相速度の推定曲線が図2−79ある。各曲線はアレ−サイズ及びアレ−展開の位置の違いにより必ずしも一致していない。これは、空間自己相関係数曲線の解析に適さない低周波数領域の位相速度が含まれていること、また地下構造の不均質性を反映した位相速度などを未整理のまま表示したためである。