(4)SPAC法とF−K法の比較

図2−68はF−K法の各アレ−毎の位相速度と波の到来方向を表わしたものである。図中に実線でSPAC法で求められた位相速度の分散曲線を示した(半径1,000mの位相速度はプロットしていない)。

SPAC法と比べて求められる位相速度の周波数範囲が狭く、ばらついている。ばらつきの度合いは円形配置の場合に最も少なかった。0.3Hzより低周波数側では、SPAC法より大きな値になっているが、これはアレ−の最大観測点間隔より長い波長の波を観測したときによく見られる「縮重(縮退)現象」、すなわち長い波長の波が複数の方向から到来すると、F−Kスペクトル上でそれらがうまく分離されず、あたかも波が一方向から到来したかのように「ゆるやかな」一つのピ−クを形成する現象、による可能性が高い(凌・岡田,1992、岡田・他,1995、宮腰・他,1996)。この場合のピ−クの位置はほぼ例外なく波数座標の原点方向にずれる。これが結果として見かけ上真の値より大きな位相速度を与えることになる。

波の到来方向については、全体的にみると、東南東方向が優勢である。この優勢と考えられる波を最も安定した感度で解析できたのは、SPAC法と同様な円形アレ−配置であった。F−K法で最も歪みの小さいF−Kスペクトルを得るための望ましいアレ−の形は、円形アレ−であることが既に知られているが、これはその裏付けともなっている。

図2−68を見てわかるようにF−K法では各周波数でいくつもの位相速度が得られ、大きくばらついている。どの位相速度を採用すれば良いか決めるには、先見的情報がないと非常に困難となる。

また、F−K法の場合、アレ−の形はさておき、アレ−サイズをSPAC法で求められた位相速度の周波数範囲と同等にするには、十字の長軸が円形アレ−半径の3〜4倍、円形アレ−で考えても2倍程度のサイズが必要となろう。しかし、SPAC法のような正三角形の配置が困難な場所では、配置に任意性のあるF−K法を採用せざるを得ない。その場合、上述したように、F−K法にとって最も重要な物理量はF−Kスペクトルであり、F−Kスペクトルはアレーの形、アレーの観測点数で決まるアレーレスポンスの影響を受けるため、歪みのないF−Kスペクトルを得るには円形あるいは正三角形を基本とする方位に偏りのない複合アレーが望ましいことから、得られた位相速度には十分な吟味が必要である。