図2−62−4 に下総地点における微調整後のSPAC法による推定S波速度構造を、表2−9に推定した構造のパラメータをそれぞれ示す。
これは周波数0.14Hz(周期7秒)の位相速度を満たすことを拘束条件として推定したS波速度構造モデルの一つである。このモデルでは、最下層として深度1,520mに2.0km/secのS波速度が推定される。またF−K法では、推定位相速度の最も低い周波数を図のように0.25Hz(周期4秒)として地下構造を推定すると最下層のS波速度は、最下層の深度約1,400mを仮定しているが、図2−62−2 の右図から1.80km/sec〜2.50km/secとなり、ユニークな値を定めることは難しい。しかし、ここでは便宜上2.35km/secを一つの解としている。ただしSPAC法及びF−K法のいずれの手法も最下層のS波速度については、それを反映している可能性のある位相速度の推定法についてさらに検討する必要がある。
ここで求められた位相速度の信頼性について前述の数値シミュレ−ションによる「アレ−サイズと推定可能な位相速度の最大波長との関係」に基づいて吟味する。これによると最大アレ−半径をR(m)、最小アレ−半径をRmin(m)、5%の誤差以内で求められる位相速度の波長をλ(m)とすると、
2Rmin≦λ≦10R (SPAC法)
....................
@
√3Rmin≦λ≦(3〜5)R (F−K法)
................
A
なる関係がある。
解析に供した最大アレ−半径は双方ともに1,000mであることから推定可能な位相速度の最大波長は、SPAC法では10,000mとなる。一方観測で求められた位相速度は周波数0.14Hz(周期7秒)で約1,650m/secであることから、波長は約12,000mとなり、推定可能限界を超えている。F−K法では推定可能な位相速度の波長はSPAC法の半分程度の3,000〜5,000mとなる。両手法ともに本地点で求められた低周波領域における位相速度は、真のS波速度を反映していない可能性がある。
VSP記録から求めたS波速度と比較すると基盤の上位層までは、ほぼ同じ値を示している。図2−63に示すように基盤の速度を変化させても理論分散曲線は、0.22Hz付近から低周波数側だけで変化をしていることから、これより高周波数領域で求められた位相速度は基盤の上位層を十分反映しているものと考えられる。
基盤のS波速度(Vs)を約3km/sと2.5km/sとの2通りを仮定し、これを推定し得るアレ−サイズを概略見積もってみる。今回求められた周波数0.14Hz(周期7秒)のレイリ−波の位相速度としてはポアソン比0.25で約0.92Vs、極限の0.50で約0.95Vsより、最小で約2.3km/s、最大で約2.9km/sである。これより波長は16,400〜20,700mとなり、上式@を参照すると1,700〜2,100mのアレ−サイズの追加観測が必要と考えられる。