(2)解析方法

解析作業は、位相速度の推定とS波速度構造を推定する逆解析の大きく2つに分けられる。

@位相速度の推定

図2−50に示したフロ−に沿って位相速度の推定を行った。解析諸元は次のとおりである。

・デ−タ編集:  10Hzリサンプリング

・観測デ−タ長:  約60分、90分、120分

・ブロックデ−タ: 2,048サンプル(204.8秒)

・最大ブロック数:  34個(48サンプルオ−バ−ラップ)

・スペクトル分解バンド幅: 0.05Hz〜0.1Hz(パルゼンウィンドウ)

・座標入力:  各観測点の位置座標を1/2,500より読みとり距離計算

・パワ−スペクトルおよびクロススペクトル計算: 原デ−タの先頭、中間および最後部のパワ−スペクトル計算による時空間定常性確認とノイズ区間除去後のデ−タの計算

・空間自己相関関数および空間自己相関係数の計算(SPAC法)

・F−Kスペクトルの計算(F−K法)

・位相速度の推定:

(SPAC法)

−アレ−サイズ別に空間自己相関係数の曲線形から位相速度推定に採用する周波数範囲を決定する。すなわち、

(a)周波数の上限は、アレ−が見分け得る最短波長(=「空間エイリアシング」の生ずる波長、すなわち2観測点間の距離の1/2より短い波長は、原理的に見分けられない、その限界となる波長)で決まる周波数(理論的には、空間自己相関係数=J0(π) ≒−0.30となる周波数)か、あるいはそれが不明瞭なデータの場合、空間自己相関係数が初めて極小(理論的には、空間自己相関係数≒−0.40)となる周波数、とする。

(b)周波数の下限は、空間自己相関係数が推定されている最も低い周波数とするが、空間自己相関係数が周波数の減少とともに単調に減少する場合は、その減少し始める周波数とする。

−平行層で近似することが適当でない複雑な地下構造の場合、同じアレ−イサイズでもアレ−の展開位置により空間自己相関係数に有意な差の生じることがある。その場合は、アレ−サイズ別にこの曲線から直接位相速度を求める。有意な差のない場合はそれらを平均化し位相速度を求めるか、以下のステップへ進む。

−周波数別に、アレ−サイズを変数とする空間自己相関係数の推定値に最小二乗法により最適の0次ベッセル関数J0(2πfr/c)(ただし、fは周波数、rは距離、cは位相速度)を当てはめ、これを満たすcを推定位相速度とする。

−各アレ−サイズ毎に求められた位相速度を統合し、最終位相速度を決定する。(F−K法)

−求められた各周波数毎のF−Kスペクトルの最大ピ−クを与える波数座標値から位相速度を計算する。

−可能な限り2〜4次ピ−クについても同様に求める。

−アレ−サイズ毎に求めたF−Kスペクトルの最大ピ−クで最終位相速度を決定する。ただし、2.4.3で後述するように、ある方向に観測点がより多く配置された偏りのあるアレ−の場合、原理的に真の位相速度値を得ることは難しく、それより大きい見かけの位相速度が求められる。したがって、同一周波数に複数の位相速度が得られているときは、相対的に真の位相速度に近いはずの最小値を採用することが望ましいと考えられるが、波の到来方向は周波数によって一定せず、「ゆらぎ」があるため、最小値を結ぶと位相速度曲線は滑らかにならない。その場合、多くはF−Kスペクトルの最大ピ−クで得られる位相速度を採用するという便法をとる。

AS波速度構造を推定する逆解析

求められた位相速度の分散はレイリ−波の基本モ−ドであり、またアレ−直下の構造が平行層であると仮定して1次元のS波速度構造を求めた。

逆解析には、個体群探索分岐型遺伝的アルゴリズム(長・他, 1997、以下「fGA」と称する)を用いた。図2−51に逆解析のフロ−を示す。

P波速度および密度値についてはLudwig, etc.(1970)の関係式を利用して理論分散を計算している。