(4)レイトレーシングによる基盤構造の推定

レイトレーシングによる方法では、岩崎(1988)による波線追跡プログラムを用いて、何回か試行錯誤を繰り返し、モデリングと実記録の走時合わせを行なった。

入力モデルは、反射法から求まった深度断面図(図2−24)やタイムターム法の結果(図2−46)を参照し、かつ下総観測井近傍の発震点S2直下で、基盤上面の深度が実データと合うように決定した。

各発震記録には、みかけ速度約1.6km/sの堆積層浅部の屈折波・みかけ速度5〜6km/s程度の基盤での屈折波が初動として明瞭であるが、このほかに基盤屈折波から遅れて見られるみかけ速度約2km/s、およびみかけ速度約3km/sの屈折波が識別できた。これをそれぞれ上総層群上面での屈折波・三浦層群上面での屈折波と仮定して初期モデルを与え、モデルと地層速度を実データと合わせるように修正していった。

最終的なモデルは、図2−47に示すようなものになった。各発震点直下で速度構造を与え、速度境界面は発震点間で直線内挿している。

表層構造は、P波反射法地震探査で使用した速度と求まった深度を平滑化したものを入力している。(高々20m程度のため、図中では識別できない。)

下総層群に相当する堆積層の速度は、深度0mで1.65km/s、深度200〜400mの基底で1.70km/sとし、この間の速度は深度に比例して増加するように設定した。

上総層群に相当する堆積層の速度は、深度200〜400mで2.05km/s、基盤直上で2.2km/sになるようにし、間は線形に内挿した。

基盤直上に層厚10mの2.8km/sの層を設けた。この層厚は厚さ50m程度にしてもあまり大きな誤差は生じないが、下総観測井で三浦層群の層厚とされる200mにすると観測された走時とモデル走時が大きく食い違うことになる。下総観測井での音波検層記録を見ると、三浦層群中に層厚30m程度の速度2.8km/sの層が見られる。この層が測線方向に連続しているとすると、この仮定と矛盾しない。この層が存在するとすると、三浦層群基底部に含まれる1つの層である。

基盤岩の速度は、S1とS3の見かけ速度の調和平均で約5.7km/sとなり、またタイムターム法の結果からも5.7〜5.9km/sの速度が得られていることから、5.7km/sでまずレイトレーシングを行ない、基盤岩速度を5.5km/sあるいは5.9km/sとした場合のレイトレーシングの結果と比較した。

レイトレーシングと実データの初動読み取り値の比較を図2−48−1図2−48−2に示す。この図は、屈折波強調処理後の記録と、10受振点ごとの初動読み取り値 ・レイトレーシングの結果求まった走時のグラフ、最下段にレイトレーシングのパスを並べて表示したものである。