2−1−2 下総深層地殻観測井周辺の物理探査

関東地方の基盤岩の広域速度分布は、1975年の夢の島発破(嶋・他,1976)を始めとして各地で実施されている。多田(1982)は、屈折法地震探査と重力データ・深層ボーリングデータを使用して関東平野の基盤構造を推定している。屈折波の解析からは、夢の島と筑波、夢の島と八千代市を結ぶ測線で、基盤のP波速度を両者とも5.5km/sと求めている。これらの測線は今回の調査地域をはさむ位置にあり、参考になるであろう。

 長谷川(1988)は、屈折法地震探査から関東平野の大局的な速度構造を求めており、

第1層: 1.8〜2.2km/s

第2層: 2.6〜3.0km/s

第3層: 3.4〜4.2km/s

第4層: 4.8〜5.0km/s

第5層: 5.6〜6.8km/s

が存在するとしている。この論文によると、第3層と第4層は本調査地域には存在せず、第1層が第四紀および新第三紀上部層に、第2層が新第三紀中・下部層に、第5層が先新第三紀基盤岩に相当している。

千葉県では、平成元年度から平成4年度にかけて、県内で人工地震観測(ダイナマイト震源)による屈折法地下構造調査を実施した。この結果の一部は報告書(1993)にまとめられている。当調査地域には、平成2年度A測線・平成2年度B測線の2測線が横切り、下総深層地殻活動観測井(以下「下総観測井」)付近で交わっている。この報告書では、堆積層に対して2種類の速度構造モデルを与え、タイムターム法により基盤の深度を求めている。基盤速度については、走時曲線の解析から5.1〜5.4km/s層と5.8〜5.9km/s層の2層に分けられるとしながらも、漸移的に変化する速度構造であり最下部の5.8〜5.9km/s層が長区間で安定的だとしている。

防災科学技術研究所の下総観測井およびその周辺では、観測井を利用した速度測定・VSP調査・反射法地震探査等が行われている。以下、年代順に調査内容をまとめておく。

太田・他(1978)は、S波大砲・ダイナマイトと3成分受振器を用いて、深度2300mまでのS波およびP波の速度を求めている。この結果によると、P波・S波速度とも深度1500mで速度が急変している。100m〜1500mの範囲でP波速度2.0〜2.1km/s、S波速度は0.485〜1.15km/sと徐々に増大している。1500m以下では、P波速度5.0km/s、S波速度2.60km/sという値が求まっている。この測定は、1500m以深の基盤岩の速度については、4〜5点の測定から算出されており、信憑性はあまり高くない。

Yamamizu etc.(1983) は、再度S波大砲による速度測定を実施し、基盤岩のS波速度を2.54km/sと改訂している。このデータに基づきS波のQ値を算出している。

同様な測定は、岩槻観測井(太田・他,1977)、府中観測井(山水・他,1981)でも行われており、山水・他(1981)にまとめられている。これによると、次のような結果となっている。

P波速度

S波速度

上総層群

1.8〜2.2 km/s

0.4〜0.9 km/s

三浦層群

2.8〜3.2 km/s

1.1〜1.6 km/s

先第三系基盤岩

4.7〜5.0 km/s

2.5〜2.6 km/s

山水・他(1993)は、下総観測井においてVSP調査を実施し、観測井の東方約0.8kmの位置で、北北東−南南西方向の約3.0kmの反射法地震探査を実施している。以下にその主要パラメータを記す。

〔VSP探査〕

震  源  : バイブロサイス 1〜2台

スイープ周波数: 8〜60 Hz

スイープ長  : 20秒

発 震 点  : ゼロオフセット1点、オフセット3点

観 測 深 度  :2300m〜10m(約20m間隔、115レベル)

〔反射法地震探査〕

震  源  : バイブロサイス 1〜2台(一部インパクター)

スイープ周波数: 8〜60 Hz

スイープ長  : 20秒

発震点間隔 : 標準50 m

発震点点数 :  57点

受振点間隔 :  25 m

総受振点数 : 125点

取得されたVSPと反射法断面図はよく調和しており、基盤は北から南に向かって深くなっていること、西側の観測井に向かってわずかに浅くなっていることが判明している。

今回のP波反射法測線は、この1993年の反射法地震探査の測線とほぼ平行に下総観測井の入口を通り、平行する部分での発震は行なっていない。また、今回のS波反射法地震探査の測線は1993年の測線の一部分とほぼ重なっている。

松岡・他(1996)は、下総深層地殻活動観測井周辺および岩槻深層地殻活動観測井周辺の2地点で微動アレー観測を行ない、SPAC法により基盤内部までのS波速度構造を求めている。アレー観測の半径は、100m, 300m, 600mの4種を用いている。下総観測井では、基盤S波速度2.5km/sが妥当としているが、S波速度を3.2km/sとした場合の際はわずかである。また、岩槻観測井では、基盤のS波速度は2.5km/sと3.2km/sの2層構造が妥当としている。

山水・他(1999)は、1993年のVSP記録から、P波・S波の直接波(初動)を検出し、P波とS波の速度構造を求めた。VSPの垂直成分および水平成分に回転処理を加えたものを図2−7に示す。ここから読み取ったP波・S波の速度およびVp/Vs比を図2−8に示す。

この結果によると、新第三系の堆積層の速度は、P波・S波とも基盤付近までは徐々に速くなっていく傾向が見られる。基盤岩内部の速度は、若干のばらつきはあるものの、P波速度5.0〜5.2km/s、S波速度2.8〜3.3km/sの範囲に収まっている。基盤内のS波の平均速度としては3.0km/s程度と見られる。

下総観測井では速度検層データも取得されており、その速度も5.0〜5.2km/sであり、VSPの解析結果と良く一致しているため、信頼性は高いと考えられる。