次に、対象地域における地震動の特徴を把握するため、やや長周期帯域(1秒〜5秒帯域フィルター)における速度ピーク分布の表示を行い、三河平野地域における盆地−山地境界部の増幅効果について考察する。ここでは、地震動の強さを表す尺度として最も適切なもののひとつと考えられている地動速度を採用する。盆地外で発生した地震について3次元シミュレーションを行った結果、対象地域の堆積平野内で堆積層表面波(盆地生成表面波)が良く発達している状況が確かめられた(図3−4−43、図3−4−50。
図3−4−52および図3−4−53に、それぞれ、2001/9/27地震および2001/2/23地震の実データと合成記録による水平動ピーク速度分布の比較を示す。地震の有効周波数である1−5秒の全帯域(上図:1.0−5.0秒帯域フィルター後)とより長周期側(下図:1.4−5.0秒帯域フィルター後)に分けてみて、3次元地下構造との関連性を類推する。実データと合成記録の水平動ピーク速度値の平面分布を比較すると、異なる地域も認められるが、共通するパターンが多く認められる。一方、1.4秒より帯域を切った場合、深さとの相関はあまり見られなかった。この理由として、スペクトラムのピークが1秒位にあるため、高周波成分を限ってみても浅部の影響に引きずられることが考えられる。また、盆地端部で生成された表面波による寄与が大きく、直下の構造に励起されるモードの寄与が少なかったのかもしれない。このため、今回使用した地震に関しては、ピーク速度値を用いる限りにおいては深い構造の影響は見えない可能性がある。
最後に、岡崎平野および豊橋平野に関して、地震動の特徴を以下に述べる。ただし、今回の速度ピーク分布図は上述したように周波数帯域が限られているため、やや長周期地震動の地域特性に関して定性的な考察を加えるだけにとどめており、マイクロゾーニングや災害予測などの詳細な議論として資することはできないので注意を要する。
岡崎平野は、その東縁は基盤と堆積層の境界面が切り立っておらず、基盤は緩やかに西に潜っている。しかし、境界より盆地内に少し入ったところ(豊田市地域から岡崎市地域を経由して西尾市地域に至る区域)で地震動の振幅が増大しているのが確認できる。この成因は、震源の放射条件にも因るが、盆地東端部で生成した表面波(盆地生成表面波)に関連して地震動が増大したものと推定される。一方、西側に関しては全体的に西傾斜であるが、知多半島で最下部となった後、濃尾平野へ続くものと見られる。岡崎平野内に複数の断層や撓曲が確認されたが、長周期帯域の地震動に影響を与えるほど規模は大きくないとみられ、衣浦港周辺の地域を除いて局所的に地震動が集中している地域は見られない。ただし、図3−4−54の実記録波形と合成波形の比較結果をみると、岡崎平野のなかで、知多半島の付け根(衣浦港)あたりの西尾市、半田市から北方の豊田市にかけての地域において、周期2〜3秒の遅い後続波が表現できていない。特に、半田・西尾市の付近の南北に並んだ観測点(AICP11、AICP12、AICP29、AICP60、AICP69)などが後続波が大きく、計算波形はそれを再現できていない。これらは、P波およびS波実体波部分は合っていることから、当地域の深部地下構造モデルの与え方の問題ではなく、浅部堆積層が適切にモデル化されていないためだと考えられる。例えば、堆積層速度が漸増するモデルは現実的であるかもしれないが、層区分を行わないと表面波は励起されにくい。今後、堆積層の層区分に関して課題が残されている。
豊橋平野に関しては、その東縁は、基盤と堆積層の境界面が切り立っていて、急激に深くなっている。盆地の規模は10km四方であり、他の堆積平野と比べて比較的小さいが、周期約3秒までに複数の卓越周期が見られた。これらの詳細な生成要因は確認できていないが、盆地生成表面波を含む堆積層表面波による地震動が大きく寄与しているものと考えられる