今回の地下構造調査で反射法探査が新たに行われたことにより、特に豊橋平野の基盤深度に関する確度は高まったと考えられる。豊橋平野での速度構造モデル(表3−4−3)による理論増幅特性を図示したのが図3−4−4である。新しいモデル(モデルA)では、D層(S波速度1.9km/s、厚さ約800m)の存在により豊橋平野の基盤深度は1000mと深くなるものの、ピーク周期は1.3秒程度であり、基盤深度が230mのモデル(モデルB)の結果と比べて殆ど変化しない。このピーク周期は、深度230mに境界をもつD層とその上位堆積層の速度コントラストに関連すると考えられる。一方、それより長い周期(3秒まで)のスペクトル形状が両者で大きく異なっており、新しいモデルでは2秒弱で変曲点を持つため振幅が2,3倍程度大きくなり、第1ピークが孤立した形にならない。この点のみを比べると、基盤を1000mに設定する新しい速度モデル(Model A)の方が、鳥取地震記録の実スペクトルの形状(図3−4−33)と近いように見える。図中には、D層のS波速度を、1.7km/s、2.1km/sとしたときの増幅特性も併記した。1.7km/s層の場合は、第1次ピークが2秒強で出現し始めていることがわかる。今回の解析から、豊橋平野における増幅特性について、比較的速いS波速度を持つ中間層(S波速度2.0km/s程度)の存在により、地震基盤の卓越周期が孤立したピークにならない点、第1次ピークより低周期(周期2秒程度)の振幅が比較的強くなる点、地盤の固有周期(基本モード)に対応するピーク周期の同定が難しく基盤深度の推定は複雑である点を示唆した。なお、遠地地震の後続波部分は盆地外側の伝播特性も影響を受けていることから、今回使用したデータだけを使って1次元増幅特性の解析からモデルの優劣を判断するのは早急である。
理論増幅特性曲線からわかるように、周期1秒以下の増幅特性は、水平方向に不均質性が強いとされる浅部地盤の影響が多分に含まれている。これまでの調査結果のみでは浅部地盤の空間変動を十分考慮したモデルは得られていないため、浅部の層境界(例えば、400m/s層)を単純に内・外挿された3次元モデルでは、高周波の周波数特性を再現するのは難しいと考えられる。前述したデータ品質も考慮して、次節の2.5次元および3次元シミュレーションでは、モデルの検証という点から、解析される周期範囲を5秒から1秒強のやや長周期帯域に絞り込んで行うこととする。