(2)各地質(堆積層)のP波速度とS波速度

地質境界を考慮して地盤中の速度構造を与えるために、各地質におけるP波速度、S波速度を検討した。

a)  平成11〜13年度の反射法地震探査、屈折法探査結果の検討

濃尾平野内の速度値と地質の種類及びその深度との関係を見る上で、確実な資料としては平成11〜13年度の反射法地震探査、屈折法探査結果がある。3章において反射法地震探査に基づく地質の境界と屈折法探査による速度層の境界と一致しないことを述べたが、1つの地質内で速度値が変化することを考慮することにより屈折法による走時曲線を満足するように、逆解析によりP波速度構造を検討した。図4−3−3に解析結果を示す。この結果より、第四紀(海部・弥富)層、東海層群、中新統とも深度の増加とともにP波速度が大きくなる傾向がみられる。これは上載荷重の増大や堆積年代が古くなると地盤の間隙率が小さくなり、締め固まることによって生じたものと考えられる。濃尾平野の速度構造をモデル化する際に地質内における速度変化を考慮する必要があることを示唆するものである。

図4−3−3 屈折法探査再解析結果

b) 各地質のP波速度とS波速度

速度値と地質の関係を検討する資料としてPS検層がある。濃尾平野内では深い地盤まで行われているものは3本であるが、この他の資料として、文部科学省によるKIK−net観測地点の深さ500m以上の全国資料を収集した。この資料から確実に地質の種類と対応づけることができ、その地質を反映したものであること、濃尾平野に現れる地質と類似であることなどの吟味をした上で、該当するデータを抽出した。また、愛知県及び近県でのKIK−netの資料に関しては、浅い部分の資料を同様の吟味により抽出した。ついで、同様にして濃尾平野内の31点の微動アレイ探査結果に関しても、地質の種類との確実な対応を確認して抽出しデータに加えた。ここで微動アレイ探査により求められるS波速度からP波速度への変換には、後述するようにLudwig(1970)による関係式を用いた。

このようなデータセットを用いて濃尾平野における地質と深度と速度の関係を検討し、以下の各地質について検討を行った。

b−1) 第四紀層の速度値

上記のデータセットから第四紀層の速度値のデータについて、深度との関係を求めて、P波速度、S波速度それぞれについて図4−3−4に示した。両者ともに、多少のバラツキはあるものの深度が深くなるに連れて、両速度値はべき乗で速くなっており、以下の関係式で表される。第四紀層では深度は250mよりも浅く、P波速度はおよそ2200m/sよりも遅く、S波速度はおよそ600m/sよりも遅いことが示されている。

Vp(m/s)=1143*第四紀層の深度(m)0.111

Vs(m/s)=277*第四紀層の深度(m)0.141

b−2) 東海層群の速度値

東海層群に関して該当する速度値のデータについて、深度との関係を求めて、P波速度、S波速度それぞれについて図4−3−5に示した。東海層群についても多少のバラツキはあるものの深度が深くなるに連れて、速度値はべき乗で速くなっており、以下の関係式で表される。東海層群の深度は、およそ1000mよりも浅く、P波速度はおよそ2400m/sよりも遅く、S波速度はおよそ900m/sよりも遅いことが示される。

Vp(m/s)=1381*東海層群の深度(m)0.082

Vs(m/s)=290*東海層群の深度(m)0.174

b−3) 中新統の速度値

中新統に関しては、図4−3−6に示されるように、データ数が少なく、直線で近似したが、深度が深くなるに連れて、速度値はわずかに速くなっている。また、速度値と深度の関係は、以下の関係式で表される。中新統の深度は、およそ2000mよりも浅く、P波速度はおよそ3500m/sよりも遅く、S波速度はおよそ1800m/sよりも遅いことが示される。

Vp(m/s)=0.406*中新統の深度(m)+2708

Vs(m/s)=0.362*中新統の深度(m)+1053

図4−3−7に各地質における速度値と深度の関係を示した。各地質の深度と速度値の関係から、地質境界面を設定した濃尾平野内の任意の地点の任意の深度の速度値を設定することが可能となり、深度の効果も考慮した平野全体の速度値の分布を推定することができることになる。

図4−3−4 第四紀層の速度値と深度の関係

図4−3−5 東海層群の速度値と深度の関係

図4−3−6 中新統の速度値と深度の関係

図4−3−7 各地質における速度値と深度の関係