3測線の結果を統一的に見るために、走時曲線を読み直し、屈折法トモグラフィーによるミラージュ構造の解析と4層速度層モデルの両方で再解析をした結果を図3−4−5に示す。
ミラージュ解析の際には、林・斎藤(1998)によるトモグラフィ解析法を用いている。これは、有限要素法や差分法のように地盤をセルに分割し、各セルに速度値を与えたモデルを作り、レイトレーシングによる理論走時計算とSIRT(同時反復法)による逆解析により、観測走時を最もよく説明するモデルを逐次修正法により求める手法である。この手法は、従来の萩原の手法等と違い、深度方向だけでなく、水平方向の細かな速度変化もモデル化することができるという特徴があり、最近広く利用されるようになっている。セルのサイズは、水平方向が500m、上下方向では125mとしている。
図3−4−5には推定された速度値と求められたモデルに対して計算された理論走時曲線を観測走時曲線に重ねて示しているが、両者はよく一致している。ただし、断層の西側については、急変部であるとともに測線端部でもあるので、解析精度は低くなっている。
ミラージュ解析の結果(図3−4−5上段)からは、深度方向に速度が次第に増大して、同じ地質であっても速度が深度に伴って漸増する傾向を示している。地質の傾向と同じように、養老山地に向かって、速度層も次第に厚くなり、深くなる傾向が見られ、4層モデルよりも養老山地の際での傾斜が急になっている様子が現れている。ただし、連続的に速度が増加することを前提とした解析結果であることを注意しなければならない。また、4層速度層モデルの解析結果(図3−4−5下段)においても、地質の境界が速度層の境界になっていない。
すなわち、地質の境界だけで、速度層の境界を決定することは難しく、地質の境界を持って速度層の境界とすることもできない。ただし、確実な速度値のデータが限られており、地質の境界から速度層の境界を推定する際には重要な参考資料となる。
両者の結果からは、地震基盤層をP波速度Vp=5.5km/sで解釈すること及び反射法探査による基盤岩類上面深度とは大きく矛盾しない結果になっている。ただし、平成12年度測線の南端の部分及び平成13年度測線の東から3分の1程度の部分では基盤の速度が遅く、あるいは深くなっており、これは後述する重力探査で見られる小さな谷の部分に相当している。
さらに、養老断層の部分の形状は速度層としてはかなり急な傾斜であるが、地質および下記の反射法探査結果で示される逆断層のような分布形状よりはなだらかな形状であり一致していない。こうした相違は、屈折法探査と反射法探査による伝播経路による違いが原因として考えられる。
図3−4−4 屈折法探査走時曲線(平成11〜13年度測線)
図3−4−5 平成11〜13年度地下構造調査(屈折法探査)の再解析の1例