調査では、平成11年から13年度に実施された反射法・屈折法地震探査結果を主要なデータとし、既往調査研究成果等を合わせて総合的に解析し、強震観測記録により検証を行い、濃尾平野の基盤およびその上位の堆積層の形状と物性値を推定し、3次元地下構造モデルを作成し、その過程で、モデル化に関する知見を得た。
1)地盤モデルの特徴
解析の結果得られた濃尾平野における3次元地下構造モデルの特徴を以下に要約する。
@ 養老断層によってその西縁を限られた濃尾平野は、濃尾傾動運動により、基盤岩類とその上位の各堆積層は、養老山地に向かい西に深く東に浅い構造を呈する。
A 地震基盤に相当する基盤岩類は、養老山地の東の最深部では2000mを超える。東方の山地では露頭しており、東に向かって浅くなる。物性値としては、P波速度5.5km/s、S波速度3.0km/s、密度2.6g/cm3程度の値が推定される。
B 基盤岩類直上の中新統相当層も、西に向かい上面深度が深くなり、層厚も物性値も大きくなる。養老山地の東では上面深度が2000mに達し、P波速度3.25−4.0km/s、S波速度1.35−1.9km/s、密度2.3−2.5g/cm3程度の範囲の値が推定される。
C その上位の東海層群相当層も西に向かって深くかつ厚くなる。養老山地の東で最も深く1000mに達する。層厚も1000m近くなる。P波速度1.8−3.3km/s、S波速度0.5−1.4km/s、密度2.1−2.3g/cm3程度の値が推定される。
D その上位の第四紀層も同様な傾向があり、養老山地東では、1000m近い厚さがあるがその他の地域では一般に薄い。P波速度1.7−2.5km/s、S波速度0.5−1.2km/s、密度2.0−2.3g/cm3程度であると推定される。
E 最表層は、やはり養老山地に向かって厚くなる。層厚は最大で約700m程度と推定される。表層の分布は複雑で変化に富むが、厚さが薄いこともあって、P波速度1.5km/s、S波速度0.5km/s、密度1.7g/cm3程度と設定した。
2)地盤のモデル化について
地下構造のモデル化の検討過程について考察した結果は以下の通りである。
@地質境界を考慮した手法について
地震動予測のための地下構造のモデル化は、速度値を基本とするものであり、平成11〜13年度に実施された屈折法探査、PS検層、微動アレイ探査結果を基本的な速度値とした。限られた速度値の資料を深さ方向、そして面的に展開するにあたり、地質境界を考慮したモデル化を図った。
このため、地質・深度と速度の関係を求めて適用した。しかしながら、一律な関係式では複雑な地質を介在させた場合には十分な説明とならない部分があった。地質境界の推定などにおいて誤差の入り込む余地がある。観測速度値による速度層モデルをベースとして、地質分布などを参考にしながらモデル化を行い、強震観測記録による検証をしていく過程が推奨される。
A表層の取り扱いについて
今回の主目的は深い地盤構造のモデル化ではあったが、計算上の制約から表層の地盤に関しては検討結果よりも粗いモデル化になった部分もある。深い地盤構造と浅い地盤構造をハイブリッドで計算する試みもなされており、この後の進むべき方向と考えられる。
B検証法の適用性について
作成した地下構造モデルの妥当性を評価するために、本調査では、平野内の強震観測ネットワークで観測された地震記録や重力データを使って、卓越周期、S波増幅率、重力異常分布、走時データ、波形シミュレーションの5種類の独立した手法を用いて検証を行った。異なった観点での検証によって、偏らないモデル化が可能となる。
卓越周期(H/Vスペクトル)による検証、S波増幅率による検証は、地震動予測において最も重要なS波速度構造を確認、修正するための基本的手法である。重力異常分布、走時データは、地下構造モデルの確認のためのデータである。最終的には、波形シミュレーションによる検証が最も重要である。
最後に、本調査で作成したモデルは、速度値分布を濃尾平野全体に展開する上で、地質境界分布を活用した手法をとり、現状におけるひとつの地下構造モデルを提供することができた。また、モデル化及び検証について上記のような知見を得ることができた。
今後は、地盤、速度、観測記録などの確実な資料の増加も踏まえて、さらに適切なモデル、広域のモデル化へと発展させていくことが考えられる。さらに、深い地盤のみならず、浅い地盤も含めた理論的な計算手法あるいは検証手法が進展しつつあるので、地震動予測のための地盤のモデル化を進め、地震防災に役立てていくことが次のステップであると考える。