名古屋市域では200箇所を越える地点での常時微動(周期1〜2秒以下)観測が実施されており(例えば多賀, 1979)、これらの卓越周期分布は最新名古屋地盤図(土質工学会中部支部, 1988)にまとめられている。図2−1−17には観測点位置と同時にその卓越周期を表示しており、これによれば卓越周期は、名古屋市中心部及び東部丘陵地域で0.2〜0.4秒、庄内川流域及び名古屋港臨海域で0.4〜0.6秒を示している。表層速度が表層厚に比べて大きく変化しないと仮定すれば、微動の卓越周期から表層厚の相対変化が推定できる。
やや長周期微動の測定も濃尾平野下で200点以上実施されている。図2−1−18は、宮崎ほか(1985)、や成瀬ほか(1984)によりまとめられた卓越周期分布である。
以上のような微動のスペクトルに着目する方法では、外部環境変化による時間変動が大きいという欠点があり、時間的に安定で測定も容易なH/Vスペクトルを利用した方法も試みられている。例えば、西坂・福和ほか(1998)は名古屋市域の200点を越える微動データを用い、H/Vスペクトルのやや長周期における卓越周期は地震基盤以浅の1次固有周期との相関が高いこと、短周期域における卓越周期はVs=700m/s程度の工学的基盤の上面深度と、工学的基盤深度が極端に浅くない場合には対応が良いことを報告している(図2−1−19)。
微動アレイ探査
馮ほか(1999)により、名古屋市から津島市及び名古屋港に至る地域で7点の微動アレイ観測が実施されている。この結果、基盤までのS波速度と境界面深度が推定された。基盤のS波速度は2.4km/s〜2.6km/s、基盤上面深度は約500m〜2000mまでが得られている。本地域の基盤構造は未だ不明確な点が多いため、これらの精度については今後検討する必要があると考えられるが、これらの内の1地点(山王)についてはP/S検層を含む詳細な坑井データがある。このデータと微動アレイから推定されたS波構造は浅部から基盤まで極めて良く一致している。