本調査ではこれらの既存の温泉掘削井や深層ボーリング資料などを新たに収集整理した。収集の対象としたおもなデータは、既存の公表文献資料と温泉所有者提供のボーリング柱状図資料などであり、平成9年度に実施された「尾張西部地域活断層調査」で収集した資料を含む。
収集した結果をまとめると表2−1−2と図2−1−8に示すとおりである。
表の作成に際しては、収集データの出典を明記し、位置座標、柱状図、地質区分などの精度をできるかぎり明確にした。使用した出典は下記のとおりである。
1) 坂本亨・高田康秀ほか(1986):名古屋南部地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,55p.
2) 澤田義博・南雲秀樹ほか(1999):名古屋市山王における温泉ボーリングを利用した地震観測,物理探査学会第101回学術講演会論文集,p.226−234.
3) 高田康秀・大塚寅雄ほか(1969):名古屋地盤図(2.2超深層ボーリングと深部地質構成),コロナ社,p.19−24.
4) 吉田史郎・栗本史雄ほか(1991):桑名地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,154p.
5) 高田康秀・近藤善教ほか(1979):津島地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,56p.
6) 須貝俊彦・杉山雄一(1999):深層ボーリング(GS−NB−1)と大深度地震探査に基づく濃尾傾動盆地の沈降・傾動速度の総合評価,地質調査所速報no.EQ/99/3,p.77−87.
7) 須貝俊彦・杉山雄一ほか(1998):深層オールコアボーリング解析による養老断層の活動性調査,地質調査所速報no.EQ/98/1,p.67−74.
8) 石山達也・竹村恵二ほか(1999):鈴鹿山脈東麓地域の第四紀における変形速度,地震第2輯,第52巻,第2号,p.229−240.
9) 名坂秀・赤嶺秀雄(1980):三重県北伊勢地方の古生物学的研究X,暁学園短期大学紀要,第14号,p.111−127.
10) 高田康秀・近藤善教ほか(1971)伊勢湾地域の地質と構造,竹原平一教授記念会,p,137−151.
11) 高田康秀・大塚寅雄ほか(1966):濃尾平野(2)−超深層地下水について,地質ニュース,第143号,p.18−27.
収集した柱状図をまとめて示すと、図2−1−9−1、図2−1−9−2、図2−1−9−3、図2−1−9−4、図2−1−9−5のとおりである。
収集データのほとんど大部分は記載柱状図あるいは層序区分結果のみであり、詳細な地層の対比が行われている資料はごく一部である。そのため、地質構成の区分に際しては、出典文献に明記してあるものを原則として採用し、オリジナルの柱状図に対しては、岩相の変化を目安として地質区分を行っている。
地質構成は下位より、基盤岩〜中新統〜東海層群(鮮新統)〜弥富累層以降の第四系に区分した。基盤岩はチャート・頁岩などよりなる美濃帯(中・古生層)と花崗岩が主体であり、柱状図にはその岩種を明示した。中新統は一志層群、瑞浪層群、品野層、師崎層群などと、分布する地域によって異なる名称で呼ばれているが、前期〜中期中新世に拡大した第一瀬戸内海に堆積した海成層を主体とする地層群で構成されている。東海層群は奄芸層群、瀬戸層群、常滑層群を一括して総称した名称であり、主として新第三紀鮮新世に形成された陸水成堆積物よりなる。厳密には、東海層群の最上位は第四系に相当することが明らかとされているが、本層群に属する地層を一連の堆積物として扱い、表2−1−3に示されている米野累層以前の東海層群を便宜的に鮮新統の東海層群として表示している。弥富累層以降の地質区分には、下位より弥富累層〜海部累層〜熱田累層〜濃尾層などの第四紀更新統が含まれており、各層間には上位より第一・第二・第三礫層が挟まれている。これらの地層群は、氷河性の海水準変動によって形成された海進〜海退に対応した堆積物であるとされており、海成〜汽水成〜淡水成堆積物の互層状となっている。
収集した柱状図を図2−1−8の地点図に示した断面線に沿って並べて示すと図2−1−10−1、図2−1−10−2、図2−1−10−3、図2−1−10−4、図2−1−10−5となる。これらの作成にあたって留意した点を以下にまとめる。
@羽島温泉地区
この地区では、No.9、10、19の資料が収集されている。これらのうち、No.9地点は従来の地質区分では、文献3)によると深度1030m以深が先奄芸層として表現されているだけで、その詳細は不明であった。しかし、得られたオリジナルの柱状図によると、深度885m以深よりチャートを表すと思われる記号(cht)が記載されていることと、深度910mより超硬岩用のボタンビットを使用していることが明記されていることより、この深度を基盤岩の上面深度と判断した。また、隣接するNo.10、19ではほぼ同じ掘削深度であるにもかかわらず、基盤岩が確認された記載がなく、もしこれらが正しいとするならばこの付近で地質状況の変化が推定されるが、No.10、19についてのオリジナルの柱状図が見つからないため、詳細な確認はできない。
A海津町地区
この地区は、No.22、23、24の3本が位置する。これらのうち、No.23、24はオールコア採取の調査ボーリングであり、詳細な分析が行われ、地質層序が明確にされている。また、No.22の温泉ボーリング柱状図に対しても、岩相をもとに文献7)で再考されている。これらの結果では、この地区の弥富累層以降の地層厚は収集された濃尾平野地域の柱状図資料では最も大きい。
B長島温泉地区
長島温泉を含むこの地域は、堆積盆地の西側への傾動運動によって基盤岩深度が最も深くなっている地域であり、基盤岩が確認された地点はない。例えば、No.36(閘門)では基盤岩深度は1865m以深である。また、この地区で収集された詳しい柱状図はNo.31(松陰)のみであり、他のすべては概略の地質区分結果だけである。このため、この地域の地質区分は文献3)、10)、11)に基づいている。
C中新統について
東海層群の下位で基盤岩上には中新統が分布する。ただし、濃尾平野北部及び東部地域では中新統は認められない。さらに、養老山地南麓に位置するNo.29、38地点でも中新統が欠如しており東海層群は美濃帯の基盤岩に直接重なっている。また、基盤岩に着岩したボーリング地点で中新統が記載されている柱状図はNo.1、17、18のみであり、中新統の層厚の空間変化についての情報は極めて少ないと言わざるをえない。
D養老断層について
濃尾平野の西縁は養老断層で限られる。この断層付近に位置するボーリングは、No.23、27である。とくにNo.27地点では、美濃帯に属する黒色頁岩の基盤岩が確認されたが、その下位には東海層群と考えられる礫層や粘土層が確認されている。これより、この地点が養老断層によって基盤岩が東海層群上に衝上した地点に位置することになる。また、No.23は文献6)により、養老断層が深度40〜90m間を通過するとされ、この地点が断層上に位置することが示されている。