7 今後の課題

強震動予測を目的とした地下構造モデルの作成においては、強震動に最も影響を及ぼす物性値に主眼を置くことが望ましい。強震動に最も影響を及ぼす物性値は、S波に関する弾性波速度および減衰パラメータ(Q値)であり、このときの基盤とはS波速度で約3km/s以上を有する岩盤を指している。

三河地域において、深部地下構造モデル作成のために使用できる既存資料は、ほとんどが深層ボーリングとその孔内で実施された物理検層結果であった。今回実施した微動アレー探査によって、新たにS波速度構造に関するデータを加えることができた。

しかし、深層ボーリング・物理検層、微動アレー探査ともに、地下構造に関して得られる結果は平面的には点、3次元的には線の情報でしかない。このため、実施点数を多くして調査密度を高くしなければ、信頼できる3次元的な地下構造モデルを作成することは難しい。そこで、本業務では重力異常データの解析によって3次元的な重力基盤形状を求めた。重力基盤深度は、深層ボーリングによって確認された基盤深度や今回実施した微動アレー探査の結果と概ね整合している。したがって、今回求めた重力基盤深度は、地震基盤深度の3次元的形状を大局的に表しているものと考えられる。

ただし、3次元的な重力基盤形状の信頼性、およびそれを地震基盤形状とみなすことについては、以下の点について考慮しなければならない。

@重力異常は地下の密度構造を反映している。重力基盤形状は、S波速度とは本質的に異なる物性値を対象として得られた構造であり、密度構造とS波速度構造が必ずしも一致するとは限らない。

A重力異常データの3次元構造解析において、コントロール・ポイントの平面的分布が疎な領域では、基盤形状の信頼性が低い。とくに、長波長の基盤形状の変化において精度が低くなる。

B図5−11の重力基盤断面図を見るとわかるように、重力基盤形状には短波長の凹凸が認められるが、これが真の構造を反映したものであるかを確認する必要がある。

C一般に、基盤が深くなるほど、断層等に起因した基盤形状の急激な変化を一意的に捉えることが難しくなる。また、基盤が浅いところであっても、平野−山地境界エッジ部等の基盤形状の急変部では同様の問題がある。

以上の問題点を考慮すると、今後分解能の高い反射法地震探査、および高密度屈折法地震探査を実施することが望まれる。地震探査の計画測線および探査目的は以下のとおりである。

(1) 岡崎平野

@南北測線

・平野部の全体的な地下構造の把握

A東西測線

・平野西部に存在することが予想される断層付近での基盤形状急変部の構造把握

・平野東部の平野−山地境界エッジ部の地下構造の把握

(2) 豊橋平野

@北西−南東測線

・中央構造線を横断する方向での地下構造の把握

・平野−山地境界エッジ部の地下構造の把握

一般に、深部地下構造調査で実施される反射法地震探査は、P波を対象としたものである。S波反射法は、起震力の点で深部になるほど適用が難しい。ただし、三河地域は相対的に基盤深度が浅いため、S波反射法の適用には有利であると考えられる。

また、地震探査測線上およびコントロール・ポイントの分布が疎な領域において、微動アレー探査を実施することが望まれる。

さらに、今後2次元あるいは3次元地震動シミュレーションによって、地下構造モデルの検証を行うとともに、地下構造が強震動に与える影響を定量的に評価する必要がある。この際、S波に関する減衰パラメータ(Q値)が震動特性を決める上で重要なパラメータとなるが、現状においてQ値を求めた資料はほとんどない。6.2節では、AICH04(安城)におけるQ値を求めたが、今後解析対象地震および地点を多くして、より精度の高いQ値分布を求める必要がある。

本業務も含めると、愛知県内において、濃尾平野と三河地域で地下構造調査が実施されたことになる。県内の他の地域に言及するならば、今後地下構造調査が必要な地域として、知多半島と渥美半島が考えられる。これらの地域は、濃尾平野や三河地域にとって、太平洋側で発生した地震の地震波伝播経路上に位置するという意味においても重要である。