6−3−2 震動特性

三河地域における被害地震歴を調べた結果では、当地域のなかでもとくに地震被害が大きくなる地域として幡豆郡・碧海郡が挙げられ、局所的に深度7になる所が見られる。地震被害が大きくなる要因としては、沖積層(軟弱地盤)の厚さと液状化現象の発生が考えられている。

三河地域における震害の特徴を検討した地震は、最も新しいものでも1945年の三河地震である。このため、建築物の被害としては、木造家屋が圧倒的に多い。一般に、木造家屋の固有周期は0.2〜1秒程度と考えられるが、第二次世界大戦終戦前に建てられた木造家屋の方が長周期側の傾向がある(鈴木ほか, 1996)。愛知県防災会議地震部会(1978)では、住家被害率と地盤の微動卓越周期の関係を調べているが、1945年三河地震において卓越周期0.4〜0.6秒に被害率のピークがあり、終戦前の木造家屋の固有周期とほぼ一致する。ただし、木造家屋の固有周期は1秒以下であることから、浅部の地下構造が地震被害の程度に影響を与えているものと考えられる。

ここでは、地震被害が大きい地域である幡豆郡・碧海郡を対象として、震動特性について考察する。

図6−3−4の平面図に示すように、今回実施した微動アレー探査地点で、O−1、O−2、O−3およびO−4はほぼ直線上に並んでおり、この直線の南西側はほぼ幡豆郡・碧海郡に相当する。そこで、平面図中に示した線ABに沿った断面について考えることにする。図6−3−4の中央に線ABでの層構造断面を示す。柱状図として表したのは微動アレー探査結果であり、表3−6−3の層区分に従って色分けして示した。また、同図には、微動アレー探査地点および距離16kmと22.5km地点の6地点について、重複反射理論によって計算した地盤の増幅率も併せて示した。増幅率の計算に用いた地下構造は、微動アレー探査地点については微動アレー探査結果を使用した。その他の地点については、その地点での層構造と近くの微動アレー探査結果とから推定した。各層のS波のQ(Qs)値は、表6−2−2の値を用いた。

増幅率の特徴を列挙すると、以下のとおりである。

@周期1秒以上の範囲において、卓越周期は1〜3秒程度であり、増幅率の値は11〜14程度に達する。

A周期1秒以上の範囲における卓越周期は、基盤が深いほど長くなる傾向にある。

B周期1秒以下の範囲では、一般に多くのピークが見られるが、基盤深度が浅いO−2地点や第1層が厚い16km地点では単純な形状を示す。

C周期0.3〜1秒の範囲では、増幅率はほぼ5〜10程度の値を示す。

以上のように、周期1秒以上の範囲における卓越周期は、主に基盤深度によって変化し、

深くなるほど長周期側になる。一方、周期1秒以下の範囲では、基盤深度(すなわち堆積層の層厚)とともに、軟弱な表層の層厚が震動特性に影響を与える。16km地点の増幅率に見られるように、表層厚が厚くなると周期約0.5秒以下の短周期側で増幅率は急激に小さくなる。これは、第1層〜第2層のQs値が5と小さく、減衰が大きいことが原因と考えられる。

周期0.5〜1秒の範囲については、O−1およびO−3地点で増幅率の最大値が約10に達しているが、これより南西側の16km、O−4および22.5km地点ではそれ程大きくはない。したがって、理論増幅率と木造家屋の被害率との関連性は明瞭には現れていない。強震動時の木造家屋の被害率を説明するためには、表層地盤のマイクロゾーニングや土質地盤の非線形性を考慮した解析、そして液状化解析を行う必要があると考えられる。

最後に、日本における主な堆積平野・盆地の概略的な面積と基盤深度・速度を表6−3−2に示す。これらの堆積平野・盆地と比較すると、今回調査対象としている三河地域に位置する堆積平野の面積および基盤深度は以下のとおりである。

@岡崎平野:面積は最大でも南北40km、東西20km程度であり、基盤深度は最大で0.8km程度である。

A豊橋平野:面積は最大幅(ほぼ北西−南東方向)10km、最大長さ(ほぼ北東−南西方向)25km程度であり、基盤深度は最大で0.5km程度である。

このように、三河地域の堆積平野は、面積が狭く、基盤深度が浅いという地域特性を有している。

関東平野では面積が広い上に、基盤深度が深いこともあり、浅発地震によって周期7〜10秒程度のやや長周期帯域の表面波が卓越することが知られている(Seo and Kobayashi, 1980)。これに対して、三河地域では基盤深度が相対的に浅いため、卓越周期は1〜3秒程度で短いという震動特性を有している。

表6−3−2 日本における代表的な堆積平野・盆地の概略的な面積と基盤深度・速度