3次元構造による重力異常の解析では、地下構造を近似的に角柱の集合体にモデル化して逆解析を行った。計算点の計算重力値は、各角柱から計算される重力値を合計することにより求める。ただし、計算重力値は相対的な意味しかもたないので、 z=D0なる基準面を考え、それからの凹凸分の重力値を計算する(駒澤, 1984; 駒澤・長谷川, 1988)。
均質2層の3次元構造解析は、反復修正法によって行った。この手法の手順は、以下のとおりである(駒澤, 1984; 駒澤・長谷川, 1988)。
@フィルタ処理により、ブーゲー異常値から、低周波数成分やノイズ成分を分離し、残差重力値(grs)を求める。
A基盤露頭や基盤深度がわかっている坑井地点をコントロール・ポイントとして、解析範囲に均等に分布するように設定する。
B計算重力値(Δg)を0、基盤境界面の標高を D0、誤差傾向面(ger)を0に初期設定する。
C残差重力値(grs)と、計算重力値に誤差傾向面を加算したもの(Δg+ger)との差をブーゲー板の厚さに変換し、基盤境界面を修正する。
Dコントロール・ポイントでの基盤境界面の標高と、Cで計算した基盤境界面の標高のズレが最小になるように基盤境界面を修正する。
E地下構造を密度差 Δρをもった格子状に並んだ鉛直の角柱の集合体で近似し、(5.5)式により計算重力値(Δg)を求める。
F残差重力値(grs)と計算重力値(Δg)との差から、加重平均法や低次の多項式で構造に関する誤差傾向面(ger)を求める。
G残差重力値(grs)と、計算重力値に誤差傾向面を加算したもの (Δg+ger)の誤差が設定したしきい値より小さくなるまで、C〜Fの処理を繰り返す。
本調査地域およびその周辺において基盤を成す地質は中・古生層であり、中央構造線によって内帯(領家帯・美濃帯)と外帯(三波川帯・秩父帯・四万十帯)に二分されている。それより上位の堆積層は、表層として沖積層、洪積層が分布し、その下位に新第三紀層が分布している。本調査地域内で掘削された深層ボーリングで、基盤に達し、かつPS検層と密度検層の結果が公表されている資料はない。しかし、本解析領域内において、これらの条件を満たす深層ボーリングとして、清洲観測井とアルペン山王の湯(温泉ボーリング)の2坑井が掘削されている。清洲観測井での物理検層結果(愛知県, 2001)およびアルペン山王の湯での岩石試験結果(澤田ほか, 1999)より、浅層部を除いた堆積層の密度は2.0〜2.3g/cm3程度、基盤の密度は2.7〜2.8g/cm3程度と想定される。これより、堆積層と基盤の密度差 を0.6g/cm3に設定した。
コントロール・ポイントとしては、解析領域内において基盤に達した深層ボーリング地点を使用することができる。ただし、一般に公表されている基盤深度は地質的境界の深度であり、必ずしも地震基盤(S波速度Vsで約3km/sを示す岩盤)には一致していない。そこで、解析領域内において基盤に達した深層ボーリングのうち、PS検層が実施されており、Vsで約3km/sの地層が確認されているものをコントロール・ポイントとした。また、本業務で実施した微動アレー探査地点のうちの10点(O−1、O−2、O−4、O−5、O−6、O−7、T−1、T−2、T−3、T−4)もコントロール・ポイントとした。本解析では表5−1に示す17点をコントロール・ポイントとして採用し、Vs≧2.8km/sを示す速度層の上面深度を基盤深度とした。深層ボーリング地点については、地質的な基盤深度(単に「基盤深度」と表記)も併せて示した。コントロール・ポイントの配置図を図5−5に示す。
重力異常データの解析領域は前述したとおりであるが、フィルタ処理や(5.5)式に示した積分の過程において、解析領域の縁辺部では歪が生じるとともに、計算重力値の精度が低下する。そこで、解析結果の表示は3,825km≦X≦3,920km、650km≦Y≦760kmの範囲とする。
フィルタ処理で除去した低周波数成分の上方接続図(図5−2)に誤差傾向面(ger)を加算したものは、広域傾向面(grg=gup+ger)といい、解析対象としている深度より深い構造による重力異常を表す。広域傾向面図(grg= ger+gup(3km))を図5−6に示す。なお、今回の解析において、誤差傾向面の計算には3次の多項式を用いた。
表5−1 重力異常データの解析に用いたコントロール・ポイント
3次元構造解析の結果得られた重力基盤標高図を図5−7に、重力基盤深度図を図5−8に示す。標高、深度とも単位はmであり、コンター間隔は100mとした。なお、基盤深度は地表からの深度である。