これらの資料から求めた各種物性値の関係として、P波速度とS波速度の関係を図3−6−1に、S波速度と密度の関係を図3−6−2に示す。アルペン山王の湯では岩石試験が行われており、花崗岩(一部玄武岩)でP波速度5.3〜5.8km/s(平均値5.56km/s)、S波速度2.7〜3.0km/s(平均値2.80km/s)、密度2.8g/cm3が得られている(澤田ほか, 1999)。図3−6−2には、このデータもプロットした。ただし、密度値については、K−NET観測点における深度20m程度までの物理検層結果、清洲観測井での物理検層結果およびアルペン山王の湯での岩石試験結果しかないため、S波速度で1.3〜2.6km/sの範囲には全くデータがない。
各物性値間の関係について、その特徴をまとめると以下のとおりである。
A一般に、土質地盤では、P波速度値が土質(礫、砂、シルト、粘土等)によって変わるとともに、含水状態に大きく左右される。このため、図3−6−1を見ると、概ねP波速度2.0km/s以下の範囲では、P波速度とS波速度との間には明瞭な相関関係は認められない。
B概ねP波速度が2.0km/s以上の範囲では、P波速度とS波速度との間に相関性が見られる。
C土質地盤ではS波速度と力学特性値との相関がよいことから、図3−6−2でのS波速度と密度との関係には、ある程度の相関性が認められる。
以上の結果を総合すると、本調査地域およびその周辺地域における地下構造モデルは表3−6−3のように推定される。新第三紀の鮮新世に対応する地質は、東海層群相当層と一括して表記した。
表3−6−3では表3−6−1の濃尾平野東部と同様に6層に分割したが、その構成は大きく異なっている。前述したように、濃尾平野では最下層である第6層が先新第三紀の基盤であり、それより上位の層は新第三紀およびそれより新しい地質からなっている。一方、表3−6−3では、先新第三紀層に対応するのは、ほぼ第4層〜第6層の3層である。これらの弾性波速度の違いは、風化・変質の程度を反映しているものと考えられる。
なお、表3−6−3に示した地下構造モデルは、三河地域およびその周辺地域を対象として収集した既存資料に基づき、主としてP波速度とS波速度の関係(図3−6−1)から対象地域全体を網羅するように作成したものである。したがって、ある限定された地域について見た場合には、中間層が欠如していることもあり得る。その代表的な例としては、東三河平野が挙げられる。第2章で述べたように、東三河平野は中央構造線による断層運動と海面変動により形成されたと考えられており、東海層群の形成に係わった東海湖の範囲が及んでいない。このため、新第三紀層に対応する東海層群相当層は欠如している可能性が高いものと想定される。