3−2 屈折法地震探査

バイブレータ4台を震源とする夜間の屈折法発振により、測線東端部の市街地部分を除くほぼ全域で基盤の屈折波が確認された。基盤の屈折波の最大到達距離は、庄内川(R10))発振の記録で約21kmであった。ただし、交通量の多い主要幹線道路上での受振となったため、一部でノイズが大きくなり、特に、庄内川から千種通り付近までの市街地部分では受発振距離が3kmを超える場合屈折波初動の検出はできなかった。

測線両端及び中央付近の5点の発振点による屈折法地震探査を実施し、屈折波初動走時の解析から、レイトレーシングによる6層仮定の速度構造モデルが得られた。ここでは、基盤速度の推定を主とし、基盤より浅い部分については、反射法深度断面で得られた境界面の構造を既知として、得られている後続波を説明できるように各層内の速度を若干変化させるのみとした。

この結果、次のことが明らかとなった。

レイトレーシングで得られた速度構造モデルは、養老断層西側での走時異常を含む全体の観測走時をよく説明できるモデルとなっている。

測線東部を除く区間で実施したタイムターム法から求まった基盤岩のP波速度は約5.5km/sを示し、これを初期値としてレイトレーシングを実施した。この結果、基盤のP波速度は5.5km/secと推定された。

レイトレーシングで求まった堆積層の速度を反射法速度解析によって得られた速度とともに以下に示す。レイトレーシングで求まった堆積層中の各層の速度は、反射法による速度と大略一致しており、堆積層中の下部層の速度が西方で速くなる傾向も一致した。

表3−2−1参照

震源位置R12のショット記録には、測線の西端、往復走時3.5秒付近から、東落ちの双曲線状のイベント(以下イベントA)が認められる(図3−2−5−1(@)に赤い点線で示した、図3−2−5−1(ii)には+で示した)。このイベントが断層西側の地層境界面からの反射波であるかどうかを検証するために、レイトレーシングによる反射波走時の計算を試みた(図3−2−5−1(A)および(B))。ここでは、簡単のため、モデルを基盤とそれ以浅の堆積層の2層モデルに分け、堆積層の速度をその平均的な速度を用いて、養老断層より東側を2.2km/sec、西側を2.6km/secとして与えた(反射走時の計算には用いられないが、基盤の速度は5.5km/secとした)。養老断層より西側の基盤からの反射波(図3−2−5−1(iii)の黄色の波線)の走時は、震源位置付近を頂点とする双曲線となり(図3−2−5−1(ii)の黄色で示した走時曲線)イベントAとは一致しない。イベントAがこのモデル内での反射波であると考えた場合、測線の西端から東に向かって走時が増えるイベントAを説明できる可能性のある反射波経路としては、@震源から養老断層西側の急傾斜を持った(東落ち)基盤(基盤の壁)で反射して地表に到達する波(図3−2−5−1(iii)の青色の波線)およびA震源から養老断層東側の基盤および養老断層西側の基盤の壁で反射して地表に到達する波(図3−2−5−1(iii)の赤色の波線)が考えられる。これらのうち、@は、堆積層の速度を2割以上変化させても観測走時と1秒程度のずれが生じてしまう。したがって、ここで用いている堆積層の速度に誤差が含まれているとしても、この波線でイベントAを説明することは困難である。Aはモデルの養老断層近傍東側の基盤深度および養老断層西側の基盤の壁の傾きを若干変化させれば、イベントAを概ね説明することが出来る(図3−2−5−1(ii))。ただし、基盤上面での2回の反射によるイベントとしては振幅が強すぎないかという疑問は残る。一方、イベントAがこのモデルの外側からの反射波であると考えた場合、その可能性として、養老山地西側の基盤の壁からの反射波が考えられる(図3−2−5−2(C))。養老山地西側での基盤の壁は確認されていないが、三重県(1996)によれば、鈴鹿山脈の東側では堆積層が比較的厚く堆積しており、また、活断層研究会(1988)によれば、養老山地西側には、確実度はUであるが、本測線に斜交する方向に高度不連続が認められていることから、養老山地西側にも、基盤の急激な変化が存在する可能性が考えられる。例えば、測線の西端の受振点(R13付近)では、堆積層中(約5km)を2km/secで進み(図3−2−5−2(C)オレンジの矢印)、基盤内に入り、養老山地西側の基盤の壁で反射し、受振点に戻ったとすれば(図3−2−5−2(C)黄色の矢印、往復5kmを基盤の速度(5.5km/sec)で進むと仮定)、その走時は、5(km)/2(km/sec) + 5(km)/5.5(km/sec) = 3.4secとなり、観測されたイベントAの走時とほぼ一致する。また、一般に反射面が測線に対して斜交している場合は、垂直に入射して戻った場合に比べ、受振点が東へ移動する(反射面から離れる)に従い、波線経路が長くなるため(図3−2−5−2(D))、走時曲線は直線ではなく双曲線になると考えられる。以上のようにイベントAは測線の外側(西側)からの反射である可能性が大きいが、仮に、イベントAが養老山地東側の基盤の壁からの反射波(前述のA)であると考えた場合、この反射波走時は、反射法によるイメージング結果では不明瞭であった養老断層近傍東側の基盤深度および形状、養老断層西側の基盤の形状を推定する為の有用な情報として用いる事が出来る。