青森県から宮城県にかけての太平洋側沖合では、１８９６年の明治三陸地震（Ｍ８　１／２）や１９３３年の三陸地震（Ｍ８．１）、１９６８年の十勝沖地震（Ｍ７．９）のようにＭ８程度の巨大地震が発生することがある。２回の三陸地震は陸地から離れた日本海溝付近で発生したため、地震動による被害は小さかったが、津波により太平洋側沿岸部に大きな被害が生じた。１８９６年の明治三陸地震では県内の死者の数は２２，０００名以上_{４３}となった。被害が大きかった原因は、津波そのものの規模も大きかった上に、三陸沿岸に発達したリアス式海岸のＶ字型の地形の影響で、湾奥ではさらに津波が高くなったためである。これらの地震より規模の小さい地震でも、１９９４年の三陸はるか沖地震（Ｍ７．５）や１９７８年の宮城県沖地震（Ｍ７．４）のように、震源域が陸に近い場合には、地震動によって県東部を中心に被害を及ぼすことがある。この他、歴史の資料によると、三陸沖で発生したと考えられている８６９年（Ｍ８．３）、１６１１年（Ｍ８．１）などの地震により、三陸沿岸に被害が生じたことが知られている。また、沿岸部から１００ｋｍくらい沖合の海域では、短期間にＭ６〜７程度の地震が続けていくつか発生することがあり、例えば、１９８９年の地震活動（最大Ｍ７．１）では、Ｍ６以上の地震が６日間に６回発生したことがある。

　岩手県の地形を見ると、県内には北上高地が大きく広がり、その西側には北上川沿いの低地をはさんで秋田県との県境沿いに奥羽山脈が南北に延びている。県内の主要な活断層のほとんどは、北上川沿いの低地より西に分布しており、低地と奥羽山脈との境目には北上低地西縁断層帯、さらに西側の奥羽山脈内の秋田県との県境近くには雫石盆地西縁−真昼山地東縁断層帯が、いずれも南北方向に延びている。一方、北上高地には古い岩石などが広く分布し、比較的安定した地質となっており、北上高地北部に青森県から延びる折爪断層を除けば、活断層は少ない。上述した県内の主要な活断層は、いずれも活動度Ｂ級の逆断層である。活断層調査によると、北上低地西縁断層帯（花巻市付近）では、最新活動時期が４０００〜６０００年前であったと推定されている_{４４}。図４−４３は、岩手県の地形と主要な活断層を示したものである。

　陸域で発生した被害地震としては、秋田県との県境付近で発生した１８９６年の陸羽地震（Ｍ７．２）がよく知られている。この地震による被害の中心は秋田県であったが、岩手県内でも死者４名などの被害_{４５}が生じた。また、雫石盆地西縁−真昼山地東縁断層帯で地表にずれが生じた。このずれは川舟断層と呼ばれ、断層の西側が東側に対して最大２ｍ隆起した_{４６}。また、北上高地の東部では、小国地震と呼ばれる１９３１年の地震（Ｍ６．５）がごく浅いところで発生し、局所的に被害が生じた。小国地震が発生した地域では、顕著な活断層は知られていない。このようにＭ７程度より小さい地震であっても被害が生ずることがある。

　県北西部の岩手山付近や県南部の栗駒山周辺では、過去に群発地震が発生したことが知られている。例えば、１９８６年に県北部の一戸町西岳付近で最大Ｍ４．７、同じく１９８６年に県南部の栗駒山周辺で最大Ｍ４．７の群発地震が発生した。この他に県内で知られている群発地震の規模は、上記の二つより小さく、Ｍ４程度以下のものが多い。また、群発地震であったかどうかはっきりしないが、歴史の資料によると、１８２３年に岩手山付近で約半年間続いた地震活動（最大Ｍ５　３／４〜６）で、被害が生じたことがある。栗駒山近くの宮城県鳴子町鬼首付近を震源域とする１９９６年の秋田・宮城県境の地震活動では、逆断層型の地震（Ｍ５．９）と横ずれ断層型の地震（Ｍ５．７）が続けて発生した。複雑な発生過程の地震活動であったが、大きく見ると本震−余震型の経過をたどった_{４７}。岩手山や栗駒山は火山であるが、これらの火山と群発地震活動との関係について、はっきりしたことはまだ分かっていない。

　また、１９８７年の岩手県北部の地震（Ｍ６．６、深さ７２ｋｍ）のように沈み込んだ太平洋プレート内で発生する地震や北海道の太平洋側沖合などの周辺地域で発生する地震によっても被害を受けることがある。さらに、１９６０年のチリ地震津波のような外国の地震によっても津波被害を受けることがある。チリ地震津波の際は、三陸沖などの日本近海で発生する地震による津波と違って、湾口が狭く湾奥が広いような湾の方が、湾奥で津波が大きくなった。

　なお、岩手県とその周辺における小さな地震まで含めた最近の浅い地震活動を図４−４４に示す。

表４−２　岩手県に被害を及ぼした主な地震