地震動の強さは、ふつう震源域から離れるにしたがって弱くなる。しかし、ある場所の地震動の強さは震源からの距離だけで決まるものではなく、地表付近の地盤の影響を強く受ける。一般に、沖積層の厚い地域や埋立地などの軟弱な地盤上の建造物は、より激しく揺れて大きな被害を受けることがある。このため、震源から離れたところで思わぬ被害が生じた場合には、このような地盤の影響が考えられる。さらに、地震動の強さは、断層運動の進行方向やずれの量の分布などに依存したり、また、地域的な地下構造にも影響される。例えば、断層運動の向かう方向では、急速な破壊の進行と地震波の伝播が影響し合って、強い地震動が生じることがある。1994年の三陸はるか沖地震(M7.5)では、断層運動は日本海溝の直ぐ西から始まって、西方に向かって進行し、八戸市の沖まで達した(図2−13A)。八戸市で強い地震動(震度6)になった一因として、同市に向かうような断層運動のあったことが挙げられている{20}。また、1995年の兵庫県南部地震では、明石海峡付近から淡路島方向に断層運動が進行するとともに神戸市方向にも断層運動が進行した(図2−13B)。神戸市周辺の被害が大きくなった一因として、断層運動が神戸市方向に進行したことと、地下構造によって地震波が局所的に増幅されたことが考えられている{21}。
また、地震動と他の自然的な要素が組み合わさることによって、災害の様相が複雑になることがある。
例えば、軟弱地盤のうち、そこに水分を十分に含んだ砂がちな地層がある場合、強い地震動によって地盤の液状化現象が起きることが多い。この現象は、強く揺すられることにより、そのような地層で砂粒どうしの結びつきが一気に弱まって、地層全体が流動化することにより起こる。このとき、流動化したものが地表に吹き出すこともある(噴砂現象、図2−25)。その結果、地盤は地上の構造物を支える力を失い、比重の大きいビルや橋梁が沈下したり、比重の小さい地下埋設管やマンホールなどが浮力で浮き上がったりして、被害を及ぼす。また、液状化が生じると、単に支持力を失うだけでなく、液状化した地層が地すべりのように横方向に大きくずれ動き、盛り土の崩壊などの被害が生じることがある。
地震動により、山崩れなどの斜面崩壊が発生し、斜面にある建物などのほか、その周辺にも被害を及ぼすことがある。また、大規模な斜面崩壊に端を発して、土石流が発生することもある。1984年の長野県西部地震(M6.8)では、御岳山頂のやや南で大規模な斜面崩壊が発生するとともに、崩壊した多量の土砂は、土石流となって川を約10kmも流下し、大きな被害をもたらした{22}。斜面崩壊や土石流などが発生した場合、河川のせき止め、決壊による二次災害が発生する場合もある。なお、地震動による小規模な崩壊(土石などの崩落)はしばしば発生し、局所的な被害が生じることもある。一方、地震動が引き金となって、緩やかな斜面で広い範囲がゆっくりと滑り下ること(地すべり)がある。1995年の兵庫県南部地震では、神戸側の丘陵地域において、地すべりに伴う亀裂により局所的な被害が生じた。
斜面崩壊や地すべりなどは、地震動や降雨などが原因となって引き起こされるが、地域的な地質、地形、地下水の状況などの自然的な要素がその発生の下地になっている。なお、斜面崩壊や地すべりなどは、本震後の余震や降雨などにより発生することもある。