2−3 プレートテクトニクス

前項では、地下に力がかかり、その結果岩盤中に歪が蓄積して、それが限界に達したとき、地震が発生することを記した。それでは、日本列島とその周辺地域の下にはどのような力がかかっているのだろうか。ところが、その力を直接計測することは非常に難しい。このため、力がかかった結果、大地がどのように歪んで変形したかを観測して、それから逆に広い範囲での地下における力のかかり具合を推定するという手法がとられている。

 近年、宇宙技術が発達し、広い範囲で高精度、効率的かつ連続的に大地の変形を測定することができるようになった。その代表的なものとして、人工衛星を用いた測量技術(GPS連続観測)がある。図2−14は、この技術を使って求めた最近1年間の日本列島各地における大地の移動の量と方向を示したものである。これは、大韓民国のスウォン(Suwon) にある観測点に対する動きである。この動きを観測した期間には国内に大きな地震がなかったので、この図は、日本列島の各地が大陸に対して定常的にどのように動いているかを表していると考えられる。さらに、これらの測定結果を使って、最近1年間に日本列島がどのように変形したかを計算したものが図2−15である。北海道の太平洋側の地域や南関東地方から紀伊半島さらに四国にかけての地域などでは、北西−南東ないしは北北西−南南東方向に圧縮されるような変形を受けており、それ以外の地域では一般に東西方向に圧縮されるような変形を受けていることが分かる。 

 以上のことから、日本列島の地下では、現在一般に東西方向に、場所によっては北西−南東方向に強い圧縮の力がかかっていると推定されている。なお、地震の観測データの解析結果からも同様の結論が得られている{7}。さらに、地形や地質の調査結果によると、かなり以前(少なくとも数十万年前)から同様の力が地下にかかってきたと推定されている{8}

さて、2−1節で記した地震の分布や本項で記した日本列島に働く力を統一的に説明できないだろうか。日本列島の太平洋側沖合の帯状の地帯で、規模の大きな地震が数多く発生しているということは、この地帯に沿って顕著な弱面(断層面)があり、そこを境にして断層運動がしばしば起こっていることを示している。このことは、太平洋側沖合の帯状の地帯に地下構造の不連続、すなわち何らかの大きな境界が存在することを思わせる。一方、日本列島が広い範囲で東西方向に押されていることは、東方から日本列島に向かって何かが押している、あるいは大陸側が日本列島を西方から押していることを想像させる。1960年代末に登場した地球科学の新しい体系であるプレートテクトニクスは、このようなことを明快に説明してくれる。

 プレートテクトニクスの基本的な考え方は次のとおりである。

 地球の全表面には、プレートと呼ばれる厚さ数十kmほどの岩盤が十数枚ほど隙間なく敷き詰められている。これらのプレートはそれぞれ別々の方向に年間数cm程度の速さで相対的に移動しており、それぞれのプレート境界では、プレートが離れ合ったり、近づき合ったり、あるいはすれ違ったりしている(図2−16)。

 それでは、日本列島とその周辺でのプレートはどのように考えられているのだろうか。各種の研究の結果、日本列島とその周辺は、複数のプレートが互いに近づき合っている地域であることが分かっている。この近づき合うプレートの境界では、両プレートが互いに押し合ってヒマラヤのような巨大な山脈を形成するか、一方のプレートがもう一方の下に沈み込む。この沈み込むところ(沈み込むプレート境界)に沿って、海溝などの巨大な溝状の地形が形成される。実際、日本列島の周辺には、このような海底地形を見ることができる(図2−7)。

 日本列島とその周辺には、太平洋プレート、フィリピン海プレート、そして陸側のプレートと最低3つのプレートがある(図2−17)。太平洋プレートは、ほぼ東南東の方向から年間約8cm{9}の速さで日本列島に近づき、日本海溝などから陸側のプレートの下に沈み込んでいる。日本列島(東北日本)を東西に横切る断面で、より深いところまでの地震分布を見ると、太平洋プレートが日本列島の下へ沈み込んでいる様子がよく分かる(図2−5)。フィリピン海プレートは、ほぼ南東の方向から年間3〜7cm{10}程度の速さで日本列島に近づき、南海トラフなどから陸側のプレートの下へ沈み込んでいる。このような沈み込むプレートと陸側のプレートとの境界は、いわば岩盤の大きな境界(弱面)であり、近づき合うプレートどうしの間で圧縮の力がかかり、ここで規模の大きな地震(断層運動)が発生することは容易に想像できるであろう。なお、東北日本の日本海側沖合(日本海東縁部)に沿ってプレートの境界があるとする説{11}図2−17の破線)も出されており、近年ここでは大きな地震が連なるように発生している。

 このように、海溝などに沿って発生している地震は、沈み込むプレートに直接関係して発生する地震と考えられる。また、陸域の浅い地震は、沈み込むプレート境界から少し離れたところで発生しており、プレートの沈み込みに伴って周囲にかかる力によって発生すると考えられる。

 次項では、日本列島とその周辺で発生する地震について、さらに細かくタイプ分けを行い、それぞれの特徴を記述する。

 なお、日本列島周辺のプレートに関する観測や研究の進展により、今後プレートの配置や運動などの様子がより詳細かつ正確に判明していくものと考えられる。