(2)表層(Vp=1.8km/s)を加えたモデル

上記数値実験モデルでは、主に段差構造の有無の影響を見ることが目的であったため、Vp=2.8、4.8、5.5km/sの3層で表現したが、市域南部の走時の遅れは、2.8km/s層の大きな層厚により説明されることが分かった。実測データの解析結果から判断すると、解析で得られた走時差の分布には、浅部の低速度の地層の層厚変化が大きく影響している可能性があることが推定される。

そこで、図3−8−4に示す3層構造モデルの上位にさらに1.8km/sの層を加えたモデルを作成し、理論初動走時を計算し、観測走時分布と比較検討した。

モデル作成に当たり、Vp=2.8、4.8、5.5km/s層については、図3−8−4に示す3層構造モデルの形状をそのまま使用した。一方、1.8km/s層については、既往の調査、研究を参考に、以下の2つのモデルについて検討を行った。

1)一様傾斜モデル

Vp=1.8km/sを有する地層は上総層群上部の地層と推定されるが、図3−10に示した既往のバイブロサイス反射法探査(川崎市の調査結果)の結果及び図3−11に示す人工地震探査結果(山中ほか、1986、1988)を見ると、南から北に向かって一様に傾斜しているように見える。そこで、第1のモデルでは、図3−13−1に示すように、Vp=1.8km/s層を南から北に向かって一様に傾斜する(傾斜角約4度)層として表現した。

2)褶曲モデル

杉本ほか(1994)は、横浜市付近の上総層群は東西方向に軸を有する緩やかな褶曲構造を呈していることを示している(図3−12参照)。そこで、第2のモデルでは、1.8km/s層を振幅1.5km、波長20km程度の正弦波的うねりを有するモデルで表現した(図3−13−2参照)。

これら2つのモデルに対して、モデル下面に同時に地震波が入射したと仮定し、地表(深度0m)でのP波初動走時分布(異常)を見た。その結果を図3−14の(1)と(2)に示す。これらと実測結果(同図(3))とを比較すると、実測P波走時異常の特徴と比較的よく対応するのは、褶曲モデルであることが分かる。