3−2−2 実測データの解析

表3−2に示した地震のうち、今回の解析では、横浜気象台(横浜市中区山手町)で震度3を記録した3個の地震

・1997年7月9日発生、千葉県北西部 M=4.8

・1997年8月9日発生、埼玉県南部 M=4.7

・1997年9月8日発生、東京湾 M=5.1

と、上記地震と震源位置の方向の異なる地震として、同じく横浜気象台で震度2を記録した地震

・1997年5月20日発生、三宅島近海 M=4.5 震度2

の計4個の地震について、P波、S波の初動走時の解析を行った。ただし、三宅島近海地震については、P波記録のS/N比が悪く、初動走時を充分な精度で決定することができなかったので、S波記録についてのみ解析を行った。

解析は、図3−2に示す流れに従って実施した。以下に各ステップの処理内容を示す。

図3−3−1図3−3−2図3−3−3図3−3−4には、今回解析を実施した上記地震の3成分波形記録例を示す。震度3を記録した3つの地震については、港北区内の10観測点で記録された波形記録を、三宅島近海地震については、中区の4観測点で記録された波形記録を示した。

(a)観測初動走時図の作成

各観測点の波形記録のうち、上下動成分からP波初動時刻を、水平動成分からS波初動時刻を読み取った。読み取った各観測点の初動走時から観測走時のコンターマップを作成した。なお、ここで示した時刻は、地震計の動作時刻を基準にした値であり、実際の地震波走時ではない。

(b)震源位置効果による走時差(トレンド成分)の除去

各地震とも、上記(a)で作成した初動走時図を見ると、観測走時には明らかに震源の位置の影響によると推定される走時差が見られる。震源位置による影響が含まれていると、地下構造による走時の変化がとらえにくい。千葉県北西部の地震を例にとると、震源(震央)位置によると推定される走時差は最大約2秒であるとともに、観測点が震央から離れるに従い、直線的に走時差が大きくなっていることが分かる。この走時差は図3−4に示すように、震源と観測網の位置関係ならびに推定される地下構造(速度)を考慮すると、概略説明できる。

そこで、今回の解析では、観測走時図(a)に幾何学的に平面をフィッティングすることにより、震央位置の違いによる走時差(トレンド成分と呼ぶ)を求め、それを原記録から差し引いた。この結果得られる走時差は、上記事実より、市直下深度約10km程度以浅の地下構造の違いによる走時差を表しているものと考えられる。

(c)表層による走時差の除去

次に、表層付近の堆積層(沖積、洪積層)の分布状況の違いによる走時差の影響を除去するために、各観測点で得られているPS検層結果をもとに求めた上総層群(いわゆる土丹層)上面までのP波、S波走時を、トレンド成分除去後の初動走時図(b)から差し引いた。なお、強震計設置に先立って実施された各観測点のPS検層結果を表3−3−1表3−3−2表3−3−3に示す。また、観測点配置、PS検層結果から得た表層の層厚及びP波、S波走時を図3−5−1図3−5−2に示す。

各地震に対して以上の処理を行った結果を、図3−6−1−1図3−6−1−2図3−6−1−3図3−6−2−1図3−6−2−2図3−6−2−3図3−6−3−1図3−6−3−2図3−6−3−3図3−6−4に示す。この図から、表層補正後の走時差分布には、以下のような特徴が見られる。

・今回解析に使用した4つの地震すべてにおいて、P波、S波とも市域北部と南部に走時差の大きい部分が現れており、それらのトレンドは西北西〜東南東の傾向を示す。その走時差はP波の場合、最大で0.3秒程度、S波の場合、最大で1.0秒程度である。また、市域中部に走時差の小さい部分が現れている。

・北部の走時差の大きい部分と中部の小さい部分との境界は、想定される段差構造の位置とほぼ一致するが、走時の変化のパターンは逆である(推定される段差構造では、北部で基盤が浅く、南部で基盤が深い。つまり、北部で走時差が小さく、南部で走時差が大きくなるはずである)。

・走時差に現れた特徴は図3−7に示す既往重力データの解析結果(平成8年度の調査結果)から得られた重力異常の高低の分布パターンと非常によく一致する。つまり、異常が西北西〜東南東方向のトレンドを示し、北部と南部に低異常(低速度帯が厚い、つまり走時差が大きいと解釈可能)、中部に高異常(低速度帯が薄い、あるいは基盤が浅いと解釈可能)が分布している。この処理結果は、図から分かるように、深度4km程度以浅の密度構造異常を反映していると推定される。従って、検出された走時異常も、この程度の深度以浅の構造変化に起因する可能性が高い。

・これは、P波とS波の走時差の変動幅が、それぞれ約0.3秒と1.0秒であることからも推定される。つまり、この走時差の原因が、同じ構造変化に起因したものであると考えた場合、P波速度とS波速度の3倍も異なるのは、浅部の上総層群上部に対応する(Vp=1.8km/sの層)地層だからである。