既往調査結果では20,000y B.P.〜15,000y B.P.に活動があったとされている。図1−8−4に既往トレンチスケッチ図を示す。既往調査の解釈では、図に示す「N面において3層と4層は断層によって切られているが、1層は断層を覆って堆積している。また、2層は断層に挟まれたくさび形の部分に堆積しているが変位を受けた様子は見られない。」とし、菊川断層のイベントは3層・4層堆積後、1層・2層堆積前としている。しかし、スケッチ結果から、既往トレンチでのイベントは、2層・3層・4層堆積後、1層堆積前と見えなくもない。すなわち、イベントにより3層・4層間に2層が落ち込み、その後、2層は落ち込んだ部分以外は侵食され平坦になり、1層が堆積したと考えられる。その場合、イベントは2層堆積後となり、既往トレンチでは15,000y B.P.以降に活動があったものと解釈される。
上記解釈に従った場合、菊川断層の総合評価は以下の様になる。
@最終活動時期及び再来間隔
イベントについて図1−8−5に示す。
・イベントTは、下保木地区トレンチ、上岡枝下流地区トレンチから約25,000yB.P.にあると推定される。
・イベントUは、既往トレンチ調査(堤ほか1991)結果では、15,000yB.P.以降に最新の断層活動があると解釈される。上岡枝下流地区では、7,000〜2,080yB.P.に最終の断層活動が推定される。
図1−8−6に各イベントと発生間隔を示す。
再来間隔は図1−8−6から、イベントTとイベントUの間が、最短で約18,000年、最長で約23,000年となる。
このことから、再来間隔は、18,000年〜23,000年と推定される。
再来間隔(18,000年〜23,000年)、最終活動時期(7,000〜2,080yB.P)から将来の地震のイベント時期は以下のように推定される。
表1−8−2 将来の地震イベント時期
A平均変位速度
下保木地区及び上岡枝下流地区において確認した1イベントあたりの変位量(D)及び、図1−8−6、表1−8−2に示す再来間隔(R)から平均変位速度(S)を求める。
D=1.33〜1.58m、R=18,000〜23,000年より、
S= 1.33〜1.58 /18,000〜23,000 =0.06〜0.09m/1,000年
となり、C級(0.1〜0.01m/1,000年)の活断層の中でB級の活断層に近いものとなる。
B地震の規模
実変位量(D)と、地震の規模マグニチュード(M)とは以下の式(松田による)に示すように比例関係にあるとされている。
logD=0.6M−4
上記式に従った場合、D=1.33〜1.58mとしてM=6.9〜7.0となる。
断層の長さから地震の規模を求めるために以下の式(松田による)を用いると、
logL=0.6M−2.9
菊川断層で確実度TとされるL=18kmで計算した場合、M=6.9となり実変位量(D)から求めた規模とほぼ同じとなる。また、最も活動度の高い中央部のセグメント(6.5km)のみの地震と考えた場合はM=6.2となる。
イベントTは菊川断層中央部及び南部で確認されている。地震の規模を下保木地区トレンチの変位量D=1.33mから推定した場合、M=6.9となる。その場合、菊川断層の北部、中部、南部のほぼ全域(約18km)が活動したと考えられる。これは松田の式での計算結果(18km)とも調和的となる。下保木地区トレンチが南部セグメントの末端部であることから、一般に断層変位量が中央より末端部で減少する傾向があることを考慮すると実際の地震の規模はM=6.9以上である可能性が考えられる。
イベントUは、中央部のトレンチのみで確認されている。中央部での変位量1.58mから地震の規模を計算するとM=7.0となり地震の規模はイベントTよりも大きかった可能性が考えられる。南部の下保木地区で確認できなかったのは、菊川断層の末端部であるためと考えられ、菊川断層の北部、中部のみでなく北の海域や南部の一部で活動があったものとの考え方もできる。
以上をまとめると以下の様になる。また、図1−8−7に菊川断層セグメンテーションを示す。
・活断層としての長さ:18km〜20km(北部・中央部・南部の3つのセグメントに分かれる。:豊浦郡豊浦町本郷〜菊川町・下関市境付近)
・変位様式 :右横ずれ
・最終活動時期 :7,000〜2,080±y B.P.
・再来間隔 :18,000〜23,000年
・平均変位速度 :0.06〜0.09m/1,000年(C級)
・単位変位量 :1.33〜1.58m(実変位量)
・地震の規模 :M=6.9〜7.0