(2)堆積年代

今回の花粉化石群集では第三紀型植物群のユサン属、フウ属、イヌカラマツ属、メタセコイア属などの花粉化石は得られなかった。

試料採取地に近い島根県と都野津層からはOnishi(1969)によって花粉生層序が明らかにされている(図5−1−9)。それによると、新鮮〜更新世付近のオルドバイ・サブクロンまでイヌカラマツ属、ユサン属、フウ属の花粉化石が産出している。このことから少なくとも今回対象とした堆積物が鮮新世以前に堆積した可能性は低いと考えられる。

一方、大阪層群ではまたセコイア属の花粉化石が約80万年前の大阪層群下部層と上部層の境界付近まで産出している(古谷・田井、1993)(図5−1−10)。植生には地域的な特性が大きいため、これを単純に中国地方にあてはめることはできないが、大河内の堆積物の堆積年代は、大阪層群の上部層堆積以降である可能性が推定される。

また、山口県の宇生賀盆地と徳佐盆地において後期更新世の花粉分析結果が公表されている(三好、1989)(図5−1−11表5−1−2)。それによると、今回の分析結果のようなマツ属(複維管束亜属)、トウヒ属の出現が高率で、ツガ属がほとんど出現しないという化石群集は、後期更新世には見い出されていない。

これらのことから本郷地区に分布する堆積物の堆積年代を推定すると、後期更新世よりは古く、鮮新世−更新世境界よりは新しい、すなわち中期更新世の可能性が高いと考えられる。これはトウヒ属の花粉化石が、中期更新世まで分布していたヒメバラモミではないかという考えを支持している。