総合解析を記述するに当たって、本調査におけるイベント解析の考え方について以下に述べる。
一般に活断層のイベントは、トレンチ壁面や露頭における地層の切断・変形及びこれを被覆する地層との関係に基づいて認定される。しかし本調査においては、地表付近の地層が撓曲したために断層面が現れていなかったり、群列ボーリング等から作成した推定地質断面図により検討を行ったことから、地層の傾斜の違い(=傾斜不整合またはアバット不整合)に基づいてイベントを推定するという方法を採った。
酒田市北境地区の地質断面(図4−1−1)に示されるように、下位層ほど傾斜が急になるような地質構造は、基本的に断層運動の累積性を反映しているものと考えられる。このような場所では、地層傾斜の変化に着目することによって断層イベントを判定することが原理的に可能である。しかし一般に地層は、堆積盆地の中心に向かって初性的な傾斜をもっているし、崖錐やローム、一部の腐植土のような陸性層は斜面地にも形成し得る。また河成の礫層などは通常、下位層を削り込んで堆積しており層理面は水平ではない。したがって単純に、特にトレンチや露頭などで局部的に観察された地層の傾斜(または変形)のみをもってイベントを判断することは危険である(イベントを過大に見積もる可能性がある)。
このように、断層が直接観察できない場所においてイベントの解析を行う場合、地層の初性的な形状に注意を払うことが重要であり、そのためにできるだけ断層の上昇側、沈降側に広範囲に調査を行い、地層の変位・変形の全体像の把握に努めることが重要であると考える。
これらを踏まえ、各地点のイベント解析に際して留意した点を以下に示す。
酒田市北境地区については、岩相の変化が著しく、単層の上下面の形状は不整形であるが、細粒の水底堆積物が主体であることから、その分布形状は調査を行った数十m区間においては初性的に水平であったと判断した。よって地層の傾斜(=変位)の変化する層準にイベントを認定することが可能と考えた。例外的に粗粒堆積物の卓越するkiU層については地層下面の形状に著しい傾斜が認められるが、これをイベントの根拠とすることはしなかった(ただしこの地層がイベントに関連して形成された可能性については否定していない)。
松山町土淵地区と立川町山崎地区については、粗粒な堆積物が卓越すること、イベント認定の根拠となりうるようなはっきりとした不整合を認定し得なかったことから、詳細なイベント解析は行っていない。比較的浅部に分布する腐食土層の分布や年代値から、イベントの可能性を指摘するにとどめた。
大石田町横山地区については、砂層に始まり腐植質粘土層で終わるリズミックな堆積サイクルが成層することから、初性的にほぼ水平であったと考えられ、地層傾斜の相違からイベントを判定することが可能であると判断した。トレンチは沈降側のみ(里集落地点)または上昇側のみ(スキー場側地点)での掘削となったが、ボーリングや浅層反射法探査を行って広範囲にデータを補完するよう努めた。
河北町箕輪−根際地区については、トレンチにおいて地層の変形そのものを確認することができなかったため、イベントの認定は行わなかった。
山辺町大寺地区については、粗粒堆積物が卓越し層相変化が激しいことから、地層の変形のみをもってイベントを認定することは困難であるが、平成10年度のトレンチ調査によって断層が確認されており、最新活動時期については信憑性の高い結果が得られている。それ以前のイベントについては、地層の傾斜や変形よりもむしろ断層の上昇側においてある層準の層厚が薄くなったり欠如したりすることに着目して推定した。