(1)層相
大石田町横山地区トレンチ@の法面で観察される地層は、厚さ80cm以下の腐植質粘土層と砂〜砂礫層の互層からなり、緩く東に傾斜している。連続性の良い腐植質粘土層は6層認められ、各粘土層の間には主として砂や砂礫層からなる粗粒堆積物が堆積している。
これらの地層は粗粒堆積物に始まり上方細粒化し最上部に腐植質粘土層を伴う堆積サイクルなすことに着目して、各サイクル毎に上位から順にA層〜E層の5層に区分した。さらに各層を層相(主に粒度組成)に基づいて、A層をA1層〜A4層の4層、B層をB1層〜B3層の3層、C層をC1層〜C4層の4層、D層をD1層・D2層の2層、E層をE1層〜E4層の4層に細分した。以下にこれらの地層の特徴を述べる。
【盛土および耕作土】トレンチ法面の最上部に観察される褐色から黒褐色のシルト混じり粘土である。南側法面西側で観察される盛土には礫が多く含まれる。これらの地層は旧耕作土および圃場整備に伴う盛土であると考えられる。
【A層】A層最上部に見られる砂混じり強腐植質粘土層(A1層)は、黒色(7.5YR1.7/1)を呈する層厚70cm以下の地層で、その下位層との境界は凹凸が激しく入り組んでいる。北側法面の25〜29m付近には、比較的淘汰の良い中粒砂から粗粒砂がレンズ状に挟在されるのが観察される。本層の中部および下部から採取した腐植質粘土試料から、それぞれ1550±60y.B.P.、1570±60y.B.P.の14C年代値が得られた。
A2層は南側法面にのみ観察され、主として中粒砂で構成される。所々に粗粒砂から細礫の配列によるラミナが形成され、また細粒砂やシルトがレンズ状に挟在されているのが観察される。本層に含まれる礫は、径1cm以下の泥岩の円礫である。色調は黒褐色(粗粒砂の部分は10YR3/2、中粒砂の部分は2.5Y3/2)を呈する。
A2層の下位に位置する連続性の良い腐植混じりの粘土層(A3層)は、中部に弱腐植質粘土層を挟在し、下部に粗粒砂を含んでいる。また、炭化植物片や原地性植物片が少量含まれる。本層は暗灰黄色(2.5Y4/2)を呈する。
A層最下部のA4層は、層厚が1.3m以下でA層全体のおよそ半分の層厚を有する。シルト〜粘土層と砂〜細礫層の互層から成り、互層を構成する各単層の層厚は10〜20cm程度で、連続性はあまり良くない。シルト〜粘土層は腐植混じりで、オリーブ黒〜灰オリーブ色(5Y3/1〜5Y4/2)を呈する。細礫層の礫は径2cm以下の泥岩の亜角礫で、淘汰の悪い中粒〜粗粒砂のマトリックスを伴う。
【B層】B層は最上部の層厚1m以下の腐植質粘土層(B1層)、その下位の礫混じり粗粒砂〜中粒砂層(B2層)および最下部のシルト層(B3層)に細分される。
B1層は東ほど厚くなり、上位のA層との境界は凹凸に富んでいる。中・上部は強腐植質粘土〜腐植混じり粘土であるが、下部は中〜弱腐植質で中粒砂〜粗粒砂粒子を含む。本層の中・上部の腐植質粘土層中には炭化植物片が多量に含まれており、黒色(強腐植質粘土層は7.5YR1.7/1〜10YR1.7/1、中腐植質粘土層は5Y2/1、弱腐植質粘土層は7.5YR2/1)を呈する。本層上部の中腐植質粘土層からは5,160±60y.B.P.が、中部の強腐植質粘土層からは6,190±70y.B.P.の14C年代値が得られた。
B2層はにぶい黄褐色(10YR4/3)を呈し、シルト層からコブル大の礫を含む砂礫層まで、層相の側方変化が大きい地層である。本層は西方ほど層厚を減じ、本トレンチの南側法面では西端部において尖滅する。12mの位置より西側では連続性の悪いシルト層を挟む中粒砂層を主体とするが、一部粗粒砂の部分も存在する。12〜18mの部分では細粒砂が卓越し、中粒砂および粗粒砂が小レンズ状に含まれている。18mからおよそ24mの間はB2層の層厚が著しく厚く、その下底面は一部では不明なものの、全体としてはお椀状に下に凸の形態をしている。この窪みに堆積したB2層は他の部分に比べて特に粗粒であり、最下部ではコブル大の礫を含む粗粒砂〜細礫層である。また、窪みの西側部分に堆積した粗砂〜細礫層にはラミナが発達しており、東に行くに従って細粒砂層とインターフィンガーしながら細粒砂主体の層相に漸移する。この細粒砂層は灰オリーブ色(7.5Y4/2)を呈し、現地性の植物片が多数見られる。B2層に含まれる礫は礫径8cm(泥岩)以下の円〜亜円礫であり、礫種は、泥岩≫酸性火山岩類≒パミス>硬質砂岩である。また、本層には未炭化木片が含まれている。
B3層は赤褐色(10R4/3)を呈するシルト層を主体とする地層であるが、東側では中粒砂から粗粒砂に層相変化をする。また、本層は位置11m付近で尖滅し、これより西側には見られない。
【C層】C層を最上部の腐植土層(C1層)、礫混じり中粒砂〜粗粒砂層であるチャネル堆積物(C2層)、粗粒砂層(C3層)、シルト層および中粒砂層(C4層)に区分した。
C1層は上部が強腐植質粘土層、中部が腐植混じり粘土層、下部が強〜中腐植質中粒砂層であり、全体の層厚は80cm以下である。本層の強腐植質粘土層は黒色(10YR1.7/1)、腐植混じり粘土層は灰オリーブ色(5Y4/2)、強〜中腐植質中粒砂層は黒色(10YR1.7/1)を呈する。本層中部の腐植混じり粘土層中には現地性植物片が含まれている。C1層上部の強腐植質粘土層からは8,310±80y.B.P. および8,520±80y.B.P.、さらに、C1層下部の中腐植質粘土層からは8,890±80y.B.P.の14C年代値がそれぞれ得られた。
C2層は炭化植物片を挟在し、オリーブ灰色(2.5GY5/1〜5GY5/1)を呈するラミナの発達した地層である。本層は下位のC3層、C4層、およびD1層の一部までを削り込むチャネル堆積物であり、南側法面においては6m付近にグラニュール〜ペブル大の礫が多く見られる。また、北側法面の10m以西において、本層中に液状化の痕跡が認められる。
C3層の層相は南側法面と北側法面とで若干異なっている。北側法面では連続性の悪いシルト層を挟む中粒砂層であるが、南側法面では細礫混じりの粗粒砂層である。北側法面の西端部付近にはC2層同様、液状化の痕跡が認められる。本層はオリーブ灰色(2.5GY5/1)を呈する。
C4層はシルト層および中粒砂層からなっており、最上部に薄い炭質層が認められる。
【D層】D層は本トレンチのおよそ西側半分に観察される地層であり、上部の腐植質粘土層(D1層)と下部の中粒砂層を主体とする地層(D2層)とに区分される。
D1層は層厚20〜50cmで中腐植質粘土を主とし、弱腐植質ならびに腐植混じりの粘土層を挟在している。色調は、腐植混じり粘土層が暗オリーブ色〜灰オリーブ色(5Y4/3〜7.5Y4/2)、弱腐植質粘土層が暗灰黄色(2.5Y4/2)、中腐植質粘土層がオリーブ黒色(5Y3/1)を呈する。また、炭化植物片を含み、東側ほどやや層厚が厚くなる傾向が認められる。本層下部の中腐植質粘土層からは9,240±80y.B.P.の14C年代値が得られた。
D2層は粘土層やシルト層を挟むあまり淘汰が良くない中粒砂〜粗粒砂層で、北側法面で観察される堆積物の方が南側法面で観察されるものよりも細粒である。本層は砂層部が暗オリーブ灰色〜オリーブ灰色(2.5GY4/1〜2.5GY5/1)を呈し、南側法面西端部に挟在される粘土層は灰オリーブ色(5Y4/2)を呈する。
【E層】E層は最上部の弱腐植質粘土層(E1層)、その下位のシルト〜粗粒砂層(E2層)、さらに下位の中腐植質粘土層と腐植混じり粘土層の互層(E3層)、および礫混じり粗粒砂層(E4層)の4層に細分される。
E1層は炭質物の薄層を挟在し、現地性の植物片を含んでいる。色調は黒褐色〜灰オリーブ色(10YR3/2〜5Y4/2)を呈し、北側法面で観察される本層は東ほどやや層厚を増す傾向にあるが、南側法面においてはそのような傾向は認められない。また、南側法面において現地性の埋没木が見られた。本層からは9,270±50y.B.P.の14C年代値が得られた。
E2層は主として中粒砂からなり、上位ほど細粒でシルト質になる。北側法面では西から東に向かって粗粒砂主体の堆積物から中粒砂主体の堆積物に漸移し、中粒砂主体の地層中にはラミナが発達している。本層の色調は灰オリーブ色〜暗オリーブ灰色(5Y4/2〜2.5GY4/1)を呈する。
E3層は層厚約80cmの中腐植質粘土層および腐植混じり粘土層の互層からなり、現地性の植物片を含む。また、本層の最下部に炭質物の薄層が挟在されている。本層の色調は腐植質粘土層が黒褐色(2.5Y3/2)、腐植混じり粘土層が灰オリーブ色(5Y4/2)を呈する。E3層の上部および下部から採取した腐植質粘土試料からは、それぞれ9010±80y.B.P.、9400±100y.B.P.の14C年代値が得られた。
E4層は本トレンチ壁面で観察される地層のうち最も下位に位置し、層厚1m以上の礫混じり砂層である。上部約50cmは粗粒砂層と細粒砂層の互層からなり、それより下位では粗粒砂から細礫層と中粒砂層の互層である。本層の色調は灰オリーブ色〜オリーブ灰色(7.5Y4/2〜2.5GY5/1)を呈する。
(2)地質構造
本トレンチで観察される地層は、ほぼ南北走向で東に十数度以下の緩い傾斜を示している。各地層の層厚は殆ど変化の見られないものもあるが、B1層、B2層、C1層などに代表されるように、東側ほど厚くなる傾向が見られる。さらに、地層の傾斜は大局的にみて上位のものほど緩くなっている。トレンチ法面で観察される各粘土層(A1層、B1層、C1層、D1層、E1層、E3層)の走向・傾斜は、それぞれ以下のようである。
・N12°W〜N12°E,3〜5°E (A1層)
・N16〜23°E,6〜7°E (B1層)
・N18〜35°E,10〜13°E (C1層)
・N25〜31°E,11〜12°E (D1層)
・N18〜21°E,13〜14°E (E1層)
・N16〜29°E,12〜15°E (E3層)
C1層はおよそ16mより西の部分では、約10°の傾斜で徐々に分布深度を増して行き、16〜19mの位置で地層が引き延ばしの変形を受けて急激に下方へ落ち込んでいる。しかし、この変形部より東の25〜26m付近において、16m以西の約10°の傾斜を示す部分の延長線上にC1層を確認することができる。C1層が落ち込んでいる部分の西縁は、北側法面においてはB3層およびC1層の変形は引きずりによるもののみが観察されるが、南側法面においてはB3層およびC1層の引きずり変形に加えてC1層とC2〜D1層との境界に剪断面が確認される。B3層とC1層の変形から、この剪断面は正断層型の変位を生じたものであると考えられる。一方、C1層の落ち込み部の東縁は、北側法面において西傾斜の剪断面(走向・傾斜はN40°E,51°N)が確認される。本剪断面についてもB3層の変形の様子から正断層型の変位を生じたものと考えられる。従って、これらの剪断面で挟まれた部分ではC1層が地滑り性の滑動を生じて落ち込んだものと推定される。
また、C1層の落ち込み部に堆積した粗粒砂〜細礫層中には剪断面が確認され、北側法面で観察されるラミナの引きずり構造から正断層型の変位を生じたものであると考えられる。落ち込みに伴う変形はC1層およびB3層に顕著に認められるが、B2層はラミナ等の堆積構造がB2層−B3層境界と非調和的であることから、落ち込みに伴う変形は受けておらず、落ち込み後に堆積したものであると考えられる。