この地区では鈴木・他(1989)及び鈴木・他(1994)によってトレンチ調査及びボーリング調査が行われ、最新活動時期、活動間隔、変位速度などの検討がなされている。これらの調査では断層活動による変位は断層面沿いのずれによって起っているとしている。一方、平成9年度実施の反射法探査で明らかにされた地質状況から、庄内平野東縁断層帯のうち特に観音寺断層では、鮮新世〜更新世の地層が極めて厚いために断層活動が大きな幅の撓曲変形として現れ、断層面はこの歪みを解消する部分で発生している可能性が高いと考えられる。従って、完新世の活動はこの撓曲変形に反映されていると考えるべきであり、この撓曲変形から、最新の断層活動の履歴を明らかにする必要がある。
これを受けて平成10年度には、空中写真判読で観察された変形幅(幅約200m)の中での地層変形・同時面の高度差を明らかにするために4本のボーリング調査を行った。ボーリング調査の結果、約5,000〜6,000年前の地層と約3,000年前の地層との間に、明瞭な傾斜の差がみられ、この間の層準に断層や撓曲による地層変形の履歴の差があることが推定された。
これらの状況を詳細に解明するため、今年度はジオスライサー調査を実施することとした。調査位置及び調査の流れ図を図2−1−3に示した(基図は平成9年度作成のストリップマップを用いた)。断層の活動履歴を明らかにするためには一般にはトレンチ調査を実施するところであるが、鈴木・他(1994)を参考にすれば、約2,500年前のイベントのひとつ前のイベントを認定するためにはトレンチ深度が7m以上必要になると予想された。しかし当地の場合、用地的また軟弱な地盤条件からそのように大規模なトレンチを掘削するのは困難である。そこで地層をなるべく不撹乱かつ定方位の状態で、広範囲の試料を迅速に採取できる工法としてジオスライサー調査を採用することとした。これによって約6,000年前までの地層が分布する深度約8mまでの試料を密な間隔で(原則として3mピッチ。地質構造の複雑な箇所では1.5mピッチ)採取し、地質構造を把握することとした。