低位段丘T面の形成時期を約5万年前と仮定するならば測量によって得られた高度差から求められる長者原断層は0.2〜0.5m/1,000年程度となる。これに対して最上川左岸の沖積面には約2mの段差が見られるが、この沖積面に対して数mの比高を持つ低位段丘V面に見られる高度差もほぼ2m程度である。従って、この沖積面と低位段丘V面の高度差は長者原断層の最終活動を含む完新世の活動履歴を示すものであり、1回の活動の単位変位量(垂直成分)は2m程度である可能性が高い。
最上川右岸の低位段丘T面の間に刻まれた沢沿いには幅の狭い沖積低地が断層を横断して連続しているが、地表踏査の結果この沖積低地のうち断層上盤側では平坦面をつくる堆積物は20〜60cmの層厚しか持たず、基底の細礫とこの上位の砂質シルトおよび表層の旧耕作土のみが分布することが明らかとなった。
これに対して断層下盤側では少なくとも1.8m以上の厚さの堆積物が確認されており、下盤側の堆積物は断層活動によって層厚を増しているものと考えられる。この沖積面の堆積物の形成時期については明らかにされていないが、平坦面の連続や河床からの比高がほとんどないことから、堆積物は完新世のものであり、ここでも長者原断層の完新世の活動は支持される。
以上から、長者原断層では完新世の活動があった可能性は高く、最上川左岸の低位段丘V面と沖積面に見られる高度に差がないことから、この時期の活動は1回であると考えられる。また、段丘面に見られる撓曲崖の高度差から求めた平均変位速度は山形盆地のそれより小さいものと考えられ、1回あたりの単位変位量(垂直成分)は約2m程度とされるが、最終活動時期の詳細・活動間隔に関する資料を得ることには至らなかった。