(3)大寺トレンチB−1),B−2),B−3)

大寺地区では当初3箇所のトレンチ調査を計画したが、地点決定後に建てられた構造物の存在によって、最も適切と判断した地点での連続的なトレンチ掘削が困難となったため、トレンチを3地点の小規模なものとし、断層活動の履歴を検討した。実施位置はトレンチB−1)はトレンチAの西側で変形を受けない平坦面の形成時期を明らかにするためのものとし、トレンチB−2)およびB−3)は最上積を挟んだ崖の延長上とその前面の平坦地とした。

a)大寺トレンチB−1)

<地層記載>

大寺トレンチB−1)で観察された地層をA層,B層,C層に区分した。

A層:黒色の腐植土で、耕作土および礫混じり耕作土である。

B層:礫混じり腐植層および細礫優勢の砂礫層で、極めて不規則な互層状となっている。最下部は比較的淘汰の良い砂礫層でありラミナも見られる。B層に見られる腐植層から2,410±60y.B.P.と1,930±70y.B.P.の年代値が得られた。この年代値から、トレンチAにみられたB層に対比される。

C層:亜角〜亜円礫で構成される砂礫層。砂優勢部分にはラミナの発達が見られる。砂礫層は凝灰岩が優勢であり支流性の堆積物の可能性が高い。

<断層および構造記載>

このトレンチでは断層や断層変位による地層の変形は認められない。しかし、このトレンチに見られるB層は下位の地層を削り込み、年代値からトレンチAに見られたB層に対比されること、トレンチAとトレンチB−1)の間には段差などはまったく見られないことからこのB層がこの平坦地を形成していると判断される。

b)大寺トレンチB−2)

<地層記載>

大寺トレンチB−2)およびB−3)で確認された地層をA層,B層,C層に区分した。トレンチB−2)では、人工改変等のためB層が出現しない。トレンチ下部に出現するC層は年代測定の結果からトレンチB−3)に見られるC層と同時期の堆積物と判断される。しかし、腐植層と砂礫層の関係からトレンチB−3)に見られるC層よりは下位層となる可能性が高いため便宜的にC4層,C5層に区分した。

A層:耕作土および盛土である。この地点では上位の耕作土が30〜50cmでこの下位に盛 土が見られる。盛土の基底は人工的な削剥を受けている。

C層:トレンチ内では東側に急傾斜した礫層・砂層(C4層)が見られる。礫層は礫径がやや大きく亜角〜亜円礫で凝灰岩礫がほとんどを占める。砂層部分は比較的淘汰の良い粗粒砂となっており、より下位には礫まじりの粗粒砂が見られる。砂層中にはラミナの発達が良い。

トレンチの西側には急傾斜を示す黒色腐植土・腐植質シルト・腐植質粗粒砂の不規則な互層が見られる(C5層)。この腐植層から10,290±70y.B.P.の年代地が得られた。地層の傾斜は上位のC4層と同様であり。連続した堆積物と考えられる。また、礫層や腐植層の層厚に変化がないことから、ほぼ水平に堆積したものと考えられる。

<断層および構造記載>

このトレンチでは断層面は確認されないが、C層はすべて40゚〜50゚の東傾斜を示している。C層中の礫層・砂層・腐植層のいずれも層厚に変化がなく、特に腐植層は堆積時にはほとんど水平な状態で堆積し、その後の断層活動によって40゚〜50゚の急傾斜となったと考えられる。

この地層の傾斜はトレンチ@,Aにで確認された同時期に堆積した腐植層に比べて極めて急傾斜を示しており、この地点における断層活動が複数回である可能性や、1回の活動によって起る単位変位量が大きいなどの可能性が考えられる。

c)大寺トレンチB−3)

<地層記載>

大寺トレンチB−3)で確認された地層をA層,B層,C層に区分した。

A層:トレンチの上部に見られる耕作土,盛土などである表層部の黒色土壌は耕作土であるが、この直下に見られる比較的淘汰の良い砂層は聞き取りの結果盛土とした。

B層:上部の礫まじり腐植土は急耕作土であり頂面は人工的に削剥され盛土に覆われている(B1層)。この直下にはやや礫径の大きな砂礫層(B2層)が厚さ約40cm程度で連続している。この礫層の上位はやや砂優勢で礫種は凝灰岩礫がほとんどである。この下位には淘汰の良い細粒〜中粒砂層が見られる(B3層)。砂層中には薄いシルト層が連続して観察される。この砂層はトレンチの東側に向かって層厚を増し、最大で80cm 程度の厚さとなっている。B3層中の腐植質シルトから9,180±40y.B.P.の年代値が得 られた。

C層:上部には黒色腐植土層が約30cmの層厚で連続している(C1層)。この地層は緩やかに東へ向かって傾斜するが層厚の変化がない。この腐植層から9,210±40y.B.P.の年代値が得られた。この下位にはやや礫径の大きな礫層(C2層)が層厚40程度で連続し、この下位には腐植質シルト層を挾む灰色のシルト層(C3層)が確認された。C2,3層ともに東に向かって緩やかに傾斜するが層厚の変化はほとんどない。C3層中の腐植質シルト層から10,400±190y.B.P.の年代値が得られた。

<断層および構造記載>

このトレンチにおいては明瞭な断層面は確認されないが、C1〜3層は15゚〜20゚の傾斜を持って東に傾斜していることが観察される。この地層、特に下部のシルト層や上部の腐植層は細粒の堆積物であること、砂礫層に層厚に変化がないことから堆積時にはほぼ水平であったと判断される。これに対して、B3層はC1層の傾斜を埋める様に堆積しており、砂層中に挟まれるシルトなどの薄層は上位ほど水平になっている。このことから、この2つの地層の間には、地層の変形に明らかな差が認められる。

また、このトレンチで得られた年代値から、C1層もしくはC3層に見られる腐植層がトレンチB−2)において急傾斜を示すC5層の腐植層に対比される可能性は高く、少なくとも連続した堆積が短期間に起ったことを示す。この腐植層はB−2)地点において著しい変形を受け、この変形がB−3)トレンチにも連続している可能性がある。