このような状況で断層の最終活動時期・活動間隔・トレンチによる断層面沿いの単位変位量を求めようとする場合、複数のトレンチによって得られる情報を総合する必要がある。
大寺地区の場合、断層に切られない最も古い地層をトレンチBで求め、断層に切られる最も新しい地層をトレンチAから特定する。トレンチ@では断層の累積変位が認められることから、複数回のイベントを読み取り活動間隔・単位変位量に関する資料を得る。この地区で最も規模の大きいトレンチ@では、断層そのものの存在を確認でき得る可能性は高いが、低位段丘U面ないしV面以降の堆積物が存在する可能性が少なく、完新世における地層の時代区分の精度が低い。
仮にこの断層が、3,000年前に活動し、活動間隔が5,000年程度とすると、トレンチB地点では、3,000年前以降に堆積した小さな沢沿いの堆積物に断層が覆われ、トレンチAでは少なくとも1回(最終活動)のイベントが確認されるはずである。しかし、トレンチBでは断層に切られる最も新しい地層が沢沿いに堆積する地層によって削られる可能性が高くなる(特に上盤側)のに対し、トレンチAでは断層によって生じた崖を埋める地層が供給されにくいが、切られた地層が上盤・下盤ともに保存される可能性が高い。
トレンチ@では、トレンチA同様断層に切られない最も古い地層が残されにくい。しかし、予想される段丘面の形成年代から複数のイベントを記録している可能性は最も高く、活動間隔や単位変位量を求める場合このようなトレンチの実施が必要である。
上記の内容はいずれも理想的な状況であった場合必要な情報が得られるという条件があるが、山形盆地の場合圃場整備の進んだ地域が多いため、断層崖が原地形に近い形で残されているのは、この地区以外に見掛けられない。