4−3 リニアメント概説

リニアメント(lineament)は「GLOSSARY OF GEOLOGY」American Geological Institute(1977)によると次のように説明されている。

リニアメント(空中写真判読の分野に用いられる場合):空中写真において構造に支配されるさまざまな線。流路,林,茂みのような個々の写真像のあらゆる直線状の配列も含む。この用語は地層,岩相的な層準,鉱物帯,鉱脈,断層,節理,不整合や岩相境界を示唆する線として広く使用される。なお「GLOSSARY OF GEOLOGY」第三版(1987)では、流路,林,茂みのような個々のあらゆる直線状の配列という定義は削除されている。

リニアメント(構造地質学の分野で用いられる場合):地表の直線的な或いは緩やかにカーブした連続的な地形。地形的にはしばしば凹地或いは凹地の配列として表される。これらは地形模型,空中写真,レーダ映像で顕著に認められる。リニアメントの意味については多くの議論があり、あるものは確かに断層や火山列,破砕帯などの地質構造的な特徴を表しているが、意味の不明確なリニアメントは種々の偶発的な成因によると推定される。

活断層に関連して、一般に「リニアメント」という用語が用いられている。しかし、この用語は空中写真より判読した映像から読み取られる模様の意味に使われる場合や、第四紀に活動した断層とほとんど同義に用いられる場合もあり、混乱を招いている。

(財)国土開発技術センター(1986)の「第四紀断層の調査法(案)」の中では「リニアメント」という用語を使わず、空中写真等において長く線状に見える模様のうち地質構造,断層および侵食等を反映した地形と推定されるものに対して「線状模様」という用語を用いるとしている。

また、「地震と活断層」(阿部・岡田・垣見,1985)では、「リニアメント」と「線状模様」を同義に用い、空中写真で認められる線状模様を次のように分類している。

A.人工的線状模様:道路,鉄道,植生境界,水田畑の耕作線などの人工的な線状模様

B.表層的線状模様:風,波,流水,氷河などの表層における自然現象によって作られた線状模様。新期の溶岩流,地滑り崩壊などによる線状模様。

C.地質的線状模様:層理,岩石の境界,節理,断層が線状模様として現れたもの。

さらに「地質的線状模様」は以下のように分類されている。

@活断層と認められるリニアメント

A活断層と推定されるリニアメント

B活断層の可能性があるリニアメント

C断層組織地形と予測されるリニアメント

D層理や節理などと予想されるリニアメント

以上のように「リニアメント」もしくは「線状模様」という用語の用い方には統一された見解は確立されていないが、本調査では空中写真から判読されるリニアメントを第四紀における断層・撓曲などの構造運動を反映した地形を「リニアメント」と呼称することとした。

空中写真の実体視による地形判読、野外調査の予察として有効な方法であり、地形図には表示できない小規模な地形の判別や広い視野からその形態や分布などの諸特徴を把握することができる。特に、第四紀断層を調査する場合、空中写真によってリニアメントを抽出し、リニアメントの形態,鮮明度,連続性およびリニアメントが判読される地形面から、それが断層に起因した変位地形であるか否かについて予察的に検討することは、野外調査の手助けとなる。

リニアメントは変位地形の可能性を持つ個々の地形形態が直線的あるいは弧状に配列している地形である。一般に断層に伴う変位地形といわれる地形は図4−1表4−1に示すようなものがある。

本調査では、調査地域において想定される断層が低角度の逆断層である場合が多いと考えられるため、特に段丘面など更新世に形成された地形の分布する地域では、活断層に由来すると考えられる段差や崖地形などについて直線状のものだけでなく半円〜円弧状のものもリニアメントとして取り扱った。

しかしながら、空中写真判読のみによって判読されるリニアメントが、断層や撓曲等による変位地形であると判定できるのは限られた場合である。例えば、山地、丘陵内および段丘面等において異なる複数の地形面に高度不連続がある程度直線的に連続して認められる場合、同一地形面と判断される段丘面,扇状地などのリニアメントを境として、その両側に高度不連続が認められる場合、河川や尾根の連続がリニアメントを境として同方向に系統的に屈曲している場合などである。

通常、空中写真判読によるリニアメントには、構造運動に起因した変位地形と断層破砕帯、相接する岩石の侵食に対する抵抗力の差等に起因した侵食地形、河食崖、海食崖、段丘崖などが含まれており、その識別が困難である場合もある。したがって、空中写真判読によって示されるリニアメント本来は、断層の存在あるいは変位地形であるか否かについての可能性を示すものであり、その認定は野外調査(地形・地質踏査など)による確認が必要である。

このような観点から本調査では空中写真判読によって観察されるリニアメントを、その確実性や更新世後期の断層活動を反映可能性の程度によってリニアメントのランク分けを行った。

ここで使用するランクは、活断層の地表への到達位置がより詳細に判読できるもの、リニアメントの延長で時代の違う地形面の存在によって累積変位が判読できるものをより高いランクとした。このランク分けは、この判読によって断層位置のより正確な位置を検討すると同時に、断層の活動性を検討し累積変位から断層の繰り返し運動を把握し、その後行われるトレンチ調査を実施した場合、断層の活動性についてより重要な情報を得るための位置を選定する第一段階としての作業とした。

分類されるランクはAランク,Bランク,Cランクの3段階とし、分類の基準は以下の通りとした。

Aランク:活断層に由来する可能性が極めて高く、更新世後期の基準面をきることから極めて新しい時代(更新世後期〜完新世)の活動が予測され、延長上で異なる地形面に累積変位が認められることから断層活動の繰り返しが予測されるリニアメント。また、これらの変位地形が認められる地点に明らかに連続する区間。

Bランク:活断層に由来する可能性が高く更新世後期の基準面を切ることが観察されるリニアメント。時間面の変位に間接的な累積性が認められるが、最終活動時期が極めて新しい時代に起っていることが、空中写真判読からは詳細に検討できない区間。

Cランク:活断層に由来する可能性は高く更新世後期の変位が観察されるが、連続性に乏しい場合。連続性は認められるが更新性後期の活動や活動の累積性について結論付けることが困難なもの。

活断層の活動性を明らかにするためには、同一の時間面が断層活動によってどの程度変位(落差)をもっているかを明らかにすることにより、活動性の大きさを検討することが可能となる。この場合、リニアメントの両側に分布する更新世〜完新世の段丘面を対比し、形成時期を推定もしくは確定する必要がある。

このために、空中写真判読では調査地域に分布する段丘面について区分・対比を行い、地形形態・段丘面の開析状況や段丘の分布高度、河床からの比高などからおおよその形成時期を推定した。段丘面の区分と予想される形成時期を高位から高位段丘面群、中位段丘T面(125,000y.B.P.頃の形成)、中位段丘U面(100,000y.B.P.〜80,000y.B.P.に形成)、中位段丘V面(80,000y.B.P.〜60,000y.B.P.に形成)、低位段丘T面(50,000y.B.P.頃に形成)、低位段丘U面(20,000y.B.P.〜15,000y.B.P.に形成)、低位段丘V面(10,000y.B.P.頃に形成)に区分し完新世に形成された段丘面を沖積段丘T面とした。地域によりこれらの中間的な段丘面が在する場合は、より近い時期に形成された段丘に一括し段丘崖のみを図示した。

中位段丘面群や低位段丘T面については、その予想される形成時期から断層の更新世後期における継続した運動(繰り返し)の存在を把握するために重要であり、低位段丘U面上に見られる変位地形は最新活動の検討に大きな意味をもつ。また、低位段丘V面は連続性に乏しい段丘面であるが、この段丘面に変位が認められた場合、完新世の断層活動を示すものとして重要となる。