断層に近接する下盤側のV〜Z層は凹状の分布を示す.下位の地層ほどその凹みは深く,その幅も広くなることから,これら地層は上下変位が累積し,変形していると判断される(図1−3−5).このような凹状変形帯(以下,変形とする)を形成する断層が既に述べた北側のものだけなのかあるいは,その南に複数あるのかは分からない.
Z層からV層までの各層基底面の変形は明瞭である.そして不明瞭であるが,断層付近のV層上面(侵食面)の起伏は基底面の変形と類似することや,後述するようにV層に層厚の変化がないことから,U層堆積前までの侵食期に生じた断層の変形が侵食を免れて,保存されていた可能性もある.しかし,さらに上位のU層中には,変形を示唆する構造は認められず,変形は及んでいないと判断した.
断層を挟んで両側の地層を繋ぎ,凹地の深さを測り,以下の変形の数量化を試みた.なお,これは同じ様式の変形が繰り返すとの仮定を設けている.そして,変形の程度から3グル−プに分かれることが,明瞭になった.それらを図6で模式的に示している.
V層上面(侵食面) 深さ約1m
V層基底面 深さ約1m+
W層基底面 深さ約3m
X層基底面 深さ約3m
Y層基底面 深さ約5m
Z層基底面 深さ約5.5m*
(*;変形が調査範囲を越す可能性があり,参考値である)
地層の層厚を検討すると,V層は断層を挟んで,層厚の変化はほとんど認められない.その下位のW層では,上盤側の1.5m程度の層厚が,下盤側では4m程度と倍以上になる.さらに,下位のX〜Z層の層厚は下盤側でいくぶん厚くなるようであるが,それは南側の下流側ほど地層が徐々に厚くなったと解釈できる.
以上から,V〜Z層までの地層の内,W層の堆積中に断層が活動した時期がある.一方,層厚が変らない他の地層は,堆積後に変形を受けたと解釈される.変形の程度を参考にすると,最新の断層活動時期はV層堆積後で,U層堆積前である.その1回前の断層活動はW層の堆積中にあり,さらにY層堆積後で,X層堆積前にも2回前の断層活動があった可能性がある(図1−3−6).
この他,S波反射法探査断面の北側で推定された和泉層群中の断層の有無は不明であったが,和泉層群を覆う上位の地層に変位や変形は認められなかった.
断層のセンスに関しては,上下方向の変位が明瞭でない変形は大谷地区(岡田他,1998)や河西公園(水野他,1998)でも認められることから,この断層の共通した運動様式である右横ずれ卓越の動きによるものと解釈される.