2−4−3 解析結果

〔解析処理方法〕   

 観測時で得られた記録中には、通過する車両や構造物の中の大きな機械より発する振動等のノイズや、電磁波によるノイズ、また屈折波や表面波といった発震に伴うノイズ(コヒーレントノイズ)等さまざまなノイズが含まれている。反射法の解析処理の主な目的は、これらのノイズを多く含んだデータから必要な反射波だけを抽出することである。

現場でハードディスクに収録した各発震毎のデジタル記録は、ワークステーション(SUN Ultra)に転送し、反射法探査解析システムProMAX(Land Mark社製)を用いて処理を行った。図2−4−4に解析処理のフローチャートを示す。

以下に主要な処理の概要を述べる。

(1)ジオメトリ編集

 各観測波形データと、それが得られた震源位置、受振点位置などを関連付けるための処理である。

(2)静補正

 測線が起伏に富んでいたり、弾性波速度が非常に小さい表層の層厚変化があった場合、仮に地下深部の反射面が水平であっても、反射波の到達時間にばらつきが生じる。このような地表付近の不均質に起因する時間ずれを補正する処理が静補正である。静補正にはいくつかの方法があるが、ここでは、屈折波の初動走時を読み取り、この走時より各発震点・受振点におけるDelay Timeを求め、このDelay Time(表層部の伝播時間)で補正を施す処理(Refraction Statics)を用いた。

(3)バンドパスフィルター(band pass filter)         

 周波数フィルターの一種。観測された記録には、表面波のような反射波以外の波やバックグラウンドノイズが含まれている。これらのいわゆるノイズと反射波の周波数帯域の違いに着目して、反射波の信号と異なる周波数を持つノイズを減少させる処理である。

(4)デコンボリューションフィルター(deconvolution filter)

 観測された反射波形は、地層の音響インピーダンス変化にともなう反射係数列と地下を伝わる波の基本波形のコンボリューションであると考えられる。したがって、基本波形の逆特性を持つフィルタを設計し、これに観測波形を入力すると、地下の反射係数列を得ることができる。このような処理をデコンボリューションフィルタと呼ぶ。この処理により、多重反射波が除去され(弱められ)、反射波はインパルスに近い(周波数が高く独立している)波に変換される。

(5)AGC(Automtic Gain Control)            

 観測された記録は、屈折波や表面波の振幅が大きく、反射波の振幅はこれらの波に比べて小さいのが普通である。このような振幅の小さい反射波を初動付近の波の振幅と同程度の大きさになるように強制的に増幅する処理をAGCと呼ぶ。

(6)CDPソーティング(CDP Sorting)

 観測に際しては、1回の発震で96受振点の波形記録が得られ、1発震点毎の記録として収録される。以下の処理を行うためには、すべての記録がCDPギャザーごとに並んでいる方が扱い易いため、発震点毎の記録をCDPギャザーごとに並び変える作業を行う。この並び変えを、CDPソーティングと呼ぶ。

<CDPギャザー>

 図2−4−5(a)に示したような発震点受振点配置の観測データを並び替え、図2−4−5(b)に示すように反射点が共通な記録、すなわち発震点と受振点の中点が同じ位置となる記録を集める。このような記録群をCDPギャザーと呼ぶ。最終的には微弱な反射波を強調させる目的でこの記録群内の記録を加算する。このような手法は、CDP重合法(CDPスタック)と呼ばれ、反射法探査の標準的な解析法として用いられている。

(7)速度解析                       

 速度解析は、CDPスタックを実行する際に必要な速度を知るために、CDPギャザー内の反射走時Ti(X)が、オフセット距離X(発震点と受振点の距離)、2−way time T(X=0での反射面までの往復走時)、CDPギャザー内での反射位相のみかけの平均速度Vstkによって次式のように表されることを利用し、VstkとTを決定する作業である。

          

   Ti(X)={(T,I)2 +(X/Vstk,I)2 }1/2         

      ここに、  i :i番目の反射面を表す添字                         X :オフセット距離                             T :垂直(X=0での)往復走時                      Vstk:CDPギャザー内の反射位相のみかけの平均速度    

(8)NMO補正、ミュート、CDPスタック           

 図2−4−6に、NMO補正からCDPスタック処理までの過程を示す。CDPスタックの目的は、CDPギャザー内の記録を加算(重合)し、CDP位置における地下情報を表す1個の波形記録を作成することである。CDPスタックに先立ち、CDPギャザー内の各オフセット距離の波形記録をオフセットがゼロの場合の記録に変換する必要がある。この処理をNMO(Normal Moveout)補正と呼ぶ(図2−4−6(a))。次にNMO補正によって波形が大きく歪んだ部分や初動付近のの屈折波等の不要な部分を消去する。この処理をミュートという。最後に、CDPスタックして各オフセット距離の波形記録を重合する(図2−4−6(b))。CDPスタックを行うことによって、速度Vstkを持つ反射位相だけが重ね合わされ強調され、一方、多重反射波や表面波など、このVstkと異なる速度を持つ波の振幅は相対的に抑制される。重合後は、各CDP地点につき1本の波形記録となり、各々CDP点の記録として断面表示される(時間断面)。

(9)残差静補正

 静補正では補正できなかった発震点や受振点近傍地表条件の違いによる反射波の走時のばらつきを補正する処理。ここで用いたMaximum Power autostaticsは 、NMO補正後のCDPギャザーにおいて、あらかじめ指定したウインドウ内でのスタック結果のパワーが最も大きくなるような補正値を各受振点、発振点別に求め、これをすべてのCDPに対して行い、測線全体を通して最もスタック結果のパワーが大きくなる各受振点、発振点の補正量を自動反復計算によって求めるものである。

(10)マイグレーション

 CDPスタックにより得られる時間断面は、反射面が傾斜していたり、凹凸があった場合には見かけの構造しか示さない。このような時間断面を真の構造に近い断面に変換する処理をマイグレーションと呼ぶ。ここでは、周波数―空間領域で真の傾斜へ変換するF−Kマイグレーションを用いた。

(11)深度変換

 ここまで述べたような処理を行って得られる時間断面において、その縦軸は時間を表している。縦軸を深度で表す深度断面を得るためには、速度解析で求めた速度値あるいは、VSP探査やボーリング資料から推定された速度値を用いて、時間を深度に変換する必要がある。この処理を深度変換という。

〔反射法データ処理結果〕

 本探査においては、バイブレーター反射法によって得ることができなかった浅層部の詳細な情報を得ることが目的であったため、S/N比の向上よりも、分解能の向上に留意して解析を行った。以下にそれぞれの解析処理のパラメータとその結果について記述する。

(1)オリジナル波形

図2−4−7に特徴的なショット記録である発震点11,101,201,301のオリジナルデータ波形例を示す。なお、オリジナル記録は、磁気テープにSEG−Yフォーマットにて収録したものを付録として提出する。受振点84〜111は、井田川上にあり、地震計は設置されていない。受振点240〜318にかけては、北陸自動車道の間近であるため、北陸自動車道を通過する車両によるノイズの影響が見られる。また、受振点240で県道寺町羽根線が交差しているためこの付近の記録には、県道を通過する車両のノイズの影響が見られる。

(2)フィルター処理

 図2−4−8には静補正図を、図2−4−9には同じく発震点11,101,201,301の静補正、バンドパスフィルターおよびAGC処理まで行った結果の記録例を示す。静補正の最終データムは、標高20mとした。バンドパスフィルターの通過周波数帯域は30〜100Hz、AGCのオペレータ長は250msecとした。とした。このバンドパスフィルターによって、表面波および、通過車両によるノイズは大きく軽減された。この結果、反射波は、測線全体を通して600msec程度まで認められるようになったが、受振点1〜100では、S/N比が良くなく、これは表層近くの地盤条件の違いによるものと考えられる。

 図2−4−10には、デコンボリューションのテストの結果を示す。デコンボリューションテストにおいては、予測長を1ms、10ms、20msと変えて、それぞれの結果を比較した。ノイズは0.1%とした。この結果予測長は10msが最適であると判断された。

 図2−4−11にはデコンボリューションまで行った結果の記録例を示す。デコンボリューションには、プレディクテブデコンボリューションを用いた。このデコンボリューションの予測長は、デコンボリューションテストで最適と判断した10ms、オペレータ長は60ms、ノイズは0.1%とした。デコンボリューション処理によって、S/N比が若干低下しているが、これは前述したように分解能を重視したパラメータを設定しているためである。

(3)速度解析・CDPスタック

 各種フィルター処理を施した結果にCDPソーティングを行った後、速度解析を行った。

 図2−4−12に速度解析により求めた速度テーブルをカラーで示す。図2−4−13にはその速度テーブルを用いてCDP重合を行った結果(時間断面)を示す。受振点1〜300にかけては300msec、受振点300以降では、600msecまで有意な反射波が認められる。

 図2−4−14にマイグレーションテスト結果を示す。マイグレーション時に用いる速度テーブルは、実際の地盤の速度に近い値を用いいることが望ましいが、本探査の時間断面にスタック速度より推定した区間速度を用いてマイグレーションを行うと、測線の両端にマイグレーションによるひずみが著しく現れる。したがって、ここでは、マイグレーションに用いる速度はスタック速度より推定した区間速度の25%、50%、75%、100%の速度でマイグレーションテストを行った。マイグレーションによるディフラクションパターンの解消と、ひずみの現れかたの兼ね合いを観察し、マイグレーションに用いる速度には、スタック速度の50%の値が最適と判断した。図2−4−15にマイグレーション後の時間断面を示す。

(4)深度変換

 図2−4−16にスタック速度およびA孔付近の浅部においては速度検層の結果より求めた区間速度テーブルをカラーで示す。図2−4−17には時間断面(マイグレーション前)に対し深度変換処理を行った深度断面を示す。深度変換結果(深度断面)を見ると、受振点1〜300にかけては深度300m、受振点300以降では、深度600mまで有意な反射波が認められる。この探査の目的である、浅層部に注目すると、井田川周辺を除く全測線にわたって、深度50mよりも浅い深度からの反射波を多数認めることができ、その波長は15m程度である。

 図2−4−18には、マイグレーション後の時間断面に対し、深度変換処理を行った結果を示す。

 図2−4−19にはマイグレーション後深度断面をカラーで振幅の表現をしたものを示す。

図2−4−13図2−4−15図2−4−17図2−4−18図2−4−19に示す最終記録においては、往復走時で約0.4秒、深度で約400m付近まで多数の反射面が鮮明に捉えられている。深部反射法探査結果と同様、背斜構造とその東翼部に位置する断層が明瞭に認められる。

 図2−4−16の区間速度を見ると、深部反射法探査結果と同様、断層を境として両側で速度が変わっている。深部反射法探査解析結果により得られた区間速度より低い値となっているが、断層を境にして西で低く、東で高い傾向は一致する。なお、この速度解析結果は、深部反射法探査の速度解析結果で解析しにくかった部分について補完しているものである。

 図2−4−20はマイグレーション後深度断面(拡大図)に地質構造的解釈を示したものである。断層と思われる反射面は大きく分けてf1,f2の2条が認められる。断層の上盤側には深度20m程度までの連続する反射面が見られ、特にCDP測点の320〜490付近までは、深度60m付近まで連続した3枚の水平な反射面が認められる。この反射面以深は、背斜の東翼と断層面に挟まれた「三角地帯」となっており、明瞭な反射面は認められない。F2を境にして反射面に明瞭なギャップが見られ、上位に向かうにつれてギャップは小さくなっている。これらのギャップは断層の各イベントを示している可能性がある。また、f2の東側(CDP測点の0側)の深度30m付近、90m付近には上に凸な反射面の変形が認められ、全体の構造としては断層面に向かって反射面が下がる傾向が見られる。