〔反射法データ処理〕
(1)フォーマット変換及びデータ編集
データは全てGDAPS−3探鉱機を用いSEGYフォーマットで取得されているが、データ処理用の内部フォーマットへの変換を行なった。さらに不良トレース等を除去した。
(2)最小位相変換
スウィープ波形の自己相関であるクラウダーウェーブレットを最小位相変換するオペレータを求めデータに適用した。この処理により、以後のホワイトニングデコンボリューションによって震源波形はパルスに変換されることになる(図2−3−6)。
(3)インパクタデータに対する震源補正
呉羽山トンネル部分でのインパクタを震源とするデータとそれ以外のバイブレータデータを統合して処理するために、インパクタの震源波形をバイブレータの震源波形に変換するオペレータを求め、これをインパクタによる全データに適用した。オペレータは、VP.487の同一発震点で、震源以外のパラメータを同一として取得したインパクタとバイブレータ記録から求めた。図2−3−7−1には震源補正前後のショット記録を、図2−3−7−2には、重合記録におけるインパクタ記録とバイブレータ記録を示した。インパクタとバイブレータ記録間に顕著な差異は認められず、震源補正が適切であったことを示している。
(4)CMP編集
図2−3−8−1に示すCMP分布図をもとに、受振測線に出来るだけ近づけるように重合測線を設定した(図2−3−8−2,図2−3−8−3)。この重合測線に沿って、CMP間隔を5.0mとし、CMPギャザーはCMPを中心として5.0m(測線方向)×500m(測線と直交方向)の範囲のトレースデータから構成されるようなCMP編集を実施した(図2−3−13−1−1,図2−3−13−1−2,図2−3−13−1−3,図2−3−13−1−4。
(5)振幅回復、ミュート
幾何減衰を補償するために、図2−3−9に示す振幅回復テストを行なった。その結果、ウィンドウ長600msの振幅調整(AGC:Automatic Gain Control) を実施した。この際、事前に屈折初動部分をミュートにより除去した。ミュートパラメータは以下の通りである(図2−3−13−2−1,図2−3−13−2−2)。
最小オフセット : 0m
スライディング開始時間 : 0 sec
スライディング速度 : 1900−2600m/s(スペースバリアント)
テーパー : 200 ms
(6)デコンボリューション
図2−3−10に示すテストの結果オペレータ長240ms、ウィンドウ長1000msのホワイトニングデコンボリューションを実施した(Fig.18(3))。
(7)Floating datum planeへの静補正
陸上部分のデータに対し改良タイムターム法を用いて表層速度構造を推定した。図2−3−11にその結果を示す。各CMP内の平均標高(floating datum plane)を設定し、この点で受・発震が行なわれるような補正を実施した(図2−3−14−4)。この際、表層は表層基底層速度で置き換えた。
(8)速度解析
定速度重合法により速度解析を行ない、速度プロファイルを作成した。本測線においては、水平方向の構造変化が激しいため、解析は標準50CMP(250m)間隔で実施した。速度解析結果については最終記録断面図上に表示するとともに、巻末にまとめた。速度プロファイルを図2−3−12に示す。
なお、明瞭な反射イベントの無い深部については区間速度として4500m/sを仮定した。
(9)NMO補正及びミュート
速度解析により求まった速度関数を用いてNMO補正を実施した(図2−3−14−5)。また、NMO後のオフセット距離の大きいトレースで顕著な初動付近の波形歪を除去するために、NMO補正により2.0倍以上に波形が伸びるデータを除去した。さらに、以下のパラメータのミュートも適用した。
最小オフセット : 200m
スライディング開始時間 : 100 ms
スライディング速度 : 1900−2600 m/s
テーパー : 50 ms
(10)振幅調整
ウィンドウ長50msのAGCにより振幅を調整した。
(11)残差静補正
トレース間の相互相関を求め、最大相関値を与えるラグのCMP内の平均値からのずれを誤差と定義し、その誤差を統計的に発震点、受振点の補正値に分離して補正を行なう残差静補正を適用した(図2−3−14−6)。
(12)CMP重合
標準60重合のCMP重合を行なった。
(13)バンドパスフィルター
図2−3−13に示す周波数成分解析により、以下の周波数レンジをもったバンドパスフィルターを、時間が大きくなるにつれて狭帯域になるようにして適用した。
0 − 1.0sec 10−80Hz
1.0 − 1.3sec 10−70Hz
1.3 − 5.0sec 10−60Hz
(14)Datum Planeへの静補正
ここまでの処理において時刻ゼロは地表面でありCMP平均標高(floatingdatum)となっている。時刻ゼロをある一定標高(datum plane)とするような標高補正を実施した。この際datum planeは70 m M.S.L.とし、補正速度としては表層基底層速度を用いた。
(15)FDマイグレーション
差分法マイグレーションを実施した。マイグレーション速度は速度解析結果を水平方向に平滑化したものを使用した。これはマイグレーション記録上に表示した。マイグレーション速度は上記の速度値を90%にしたものを使用した。
(16)深度変換
時間マイグレーション前後のそれぞれの記録に対し、マイグレーション速度を用いて深度に変換した。深度変換後のサンプル間隔は2mである。 〔反射法データ処理結果〕
重合記録、時間マイグレーション記録及びそれぞれに対する深度記録の4種類を、図2−3−15、図2−3−16、図2−3−17、図2−3−18に表示した。さらに、マイグレーション後の深度記録のカラー表示を図2−3−19に示す。深度記録はいずれも縦横比1:1である。
図2−3−15、図2−3−16、図2−3−17、図2−3−18、図2−3−19に示す最終記録においては、往復走時で約1秒、深度で約1200m付近まで多数の反射面が鮮明に捉えられている。記録上で特筆されるのは、呉羽山西縁から井田川の区間において、呉羽丘陵の東に位置する牛ケ首用水付近を軸とする(CMP675)背斜構造とこの東翼部に位置する断層が明瞭に認められることである。呉羽山東縁には断層は認められない。特に、断層は断層面自体が反射面として捉えられている(地表位置はCMP540〜555)。明瞭ではないが、この断層面は地下深部(2000m付近)まで直線的に延びているように見える。
図2−3−20には、断層の両側においていくつかの反射面を選び、速度解析結果から求めた区間速度を深度記録上に表示した。図2−3−21には断層両側での代表的な速度解析例を示す。これらによると、断層を境として両側で速度が劇的に変わっている。西側のホライゾンAは、呉羽丘陵東崖での地表地質から音川期上部(鮮新世)に対応しており、2100〜2200m/sの区間速度は標準的な値を示している。また、ホライゾンC−D間は八尾累層に対応すると考えれば、その区間速度2600〜2800m/sは中新世の堆積層として一般的な値を示している。一方、断層の東側では浅部から区間速度が2700m/sを越えており、中新世の一般的な地層速度に対応する。このように、断層を境として両側で速度構造が大きく異なることは、図2−3−11の表層速度構造や図2−3−12の速度プロファイルにもはっきりと現れている。
当初呉羽丘陵東縁に推定されていた呉羽山断層は反射記録においては認められず、より東方の平野側に存在している。この断層は西に45゜の傾斜を有し、断層両側での層序対比が不明なため正断層か逆断層か断定はできないが、背斜構造をともなうことから類推して逆断層の可能性が高い。この断層以外には、顕著な断層は認められないが、背斜構造の西側の変曲部において深度900m〜350mにわたり反射面の不連続が認められる。ただし、垂直変位はほとんどない。この不連続部は地表までは達しておらず、呉羽山西側に推定されていた、友坂断層の兆候は認められない。