3−2−4 大坂地区の調査結果のまとめ

大坂地区の雨滝−釜戸断層の主断層の位置,性状に関する新情報は,地表質踏査(精査)では得ることができなかった.

断層露頭f16について露頭精査を実施した結果,下部に凝灰岩が,上部に段丘堆積物1,段丘堆積物2および崖錐堆積物が認められた.凝灰岩は,露頭の北側の幅約2.2mにわたって破砕帯が形成されており,破砕帯の南端を境として,南側が大きく落ち込み,全体として南落ちの逆断層となっていることが判明した.破砕帯の右端を区切る断層の活動時期を推定するため,破砕帯近傍および破砕帯上部の礫層の礫の長軸方向の調査をした結果,段丘堆積物2は断層による変位を受けていないとの結果を得た.断層に切られている段丘堆積物1の上部のシルト層の14C年代が6,460±40y.B.P.であることから,断層の活動時期は約6,500年前以降との結果を得た.また,その鉛直変位量は,少なくとも破砕帯の落差である75cm以上である.

断層露頭f17およびf17’について露頭精査を実施した結果,f17露頭では,露頭の西側上部から中央にかけて傾き下がり,弯曲している露頭の中央から北側にかけてはほぼ水平な断層が確認できた.露頭の弯曲を考慮すると,この断層は東へ傾斜した,東側隆起の逆断層と考えられる.断層面の走向傾斜は,N18゜W,48゜Nと測定された.

N'層以降J'層までが断層によって切られていたが,火山灰分析の結果,大山倉吉軽石層(DKP:約5万年前)と同定されたL層の下面を基準とすると,鉛直変位量は250cm程度である.地層の変形の程度や,断層を挟む分布状況からみると,上盤側のDKP層のみが浸食されるような状況があったと推定され,DKP層堆積後,K'層堆積以前に断層活動があったと推定される.また,O'層以下の地層の変形は,N'層より上位の地層のそれと比べて有意に大きい.したがって,O'層とN'層との間にも断層活動があった可能性がある.f17露頭に連続するf17’露頭では,火山灰分析の結果ATと同定されたH層も含む,L層以降F'層までが断層によって切られていた.H層の鉛直変位量も110cm以上である.

f17露頭のすぐ南側約5mの地点でTO−2トレンチを掘削調査した結果,トレンチTO−2の南側壁面では,壁面の右肩(西側上部)から左下(東側下部)に傾き下がる断層が確認された.この断層は見かけ上東へ傾斜しており,f17の観察結果も合わせると東側隆起の逆断層と考えられる.断層面の走向傾斜は,N17°E,28°Eと測定された.

 TO−2トレンチでは,R層以降B層(B−1を除く)までの全ての層が,断層によって切られていた.火山灰分析の結果,E層が大山東大山火山灰層(DHg),G層が大山笹ヶ平火山灰層(DSs),H層が姶良Tn火山灰層(AT:約2.5万年前)と同定された.

断層を確実に覆っているB−1層の14C年代測定結果は3,590±70 y.B.P.であり,断層に切られているB−3層の14C年代測定結果は7,490±60 y.B.P.という値を得た.したがって,TO−2トレンチ地点における雨滝−釜戸断層の最新活動時期は,約7,500年前〜3,600年前の間であることが明らかになった.

地層の変形の程度や,断層を挟んでの分布の状況からみると,E層以下の変形は,D層より上位の地層の変形と比べて有意に大きい.また,E層以下の層はD層に不整合に覆われている.したがって,E層とD層の間に断層活動があった可能性が高い.E層のDHgは,ATより上位,すなわち2.5万年前以降に堆積したことは確実であるので,最新活動も含めて2.5万年前以降少なくとも2回の断層活動があった可能性が高い.

 また,L層以下の変形はJ層以降の変形程度とは明らかに異なり,有意に大きい.したがって,L層とJ層の間にも活動時期があったと推定できる.L層のDKPは約5万年前の降下火山灰層であるので,5万年前以降,少なくとも3回の断層活動があったと推定される.

TO−2トレンチでは,断層を挟んで両側に分布する地層は,C−3層からJ層までである.L層以下の層は,L層からN層までは断層の下盤側のみに分布し,O層以下R層までの層は断層の上盤側のみに分布する.L層のDKPは上盤側にも一部分布するが,L層より下位のO層中に注入されたようになっており,変位量の測定はできなかった.J層より上位の各層の変位量は,J層の鉛直変位量は250cm以上,D−3層で80cm以上,D−1層で約60cm程度,C−3層の鉛直変位量は見かけ上40cm程度である.I層からE層は,断層の下盤側にほぼ水平に分布しているが,上盤側ではちぎれたようなブロックとなって乱れた構造になっており,全体として東に向かって撓曲している.D−1層より上位層の中では,断層は2本に分岐しながら低角化(約 20゜)しており,実際の変位量はこれより大きいと考えられる.

f17露頭の南東約100mの地点でTO−1トレンチを掘削調査した結果,基盤岩の谷状の窪みを被覆層が埋積していることが明らかになった.TO−1トレンチではN2〜N27までのほぼ全域に分布する被覆層は断層活動による変位を受けておらず,断層を確認できなかった.14C年代測定の結果,トレンチ壁面で観察できる被覆層のうち,最も下位のD−5層に含まれる木片から約25,000年前という値を得た.したがって,TO−1トレンチ掘削地点では雨滝−釜戸断層は約25,000年前以降活動していない,もしくは主断層が鞍部ではなくその西側あるいは東側の基盤岩内を通っているものと考えられる.トレンチ東端の基盤岩内では,くさり礫の密集する層状の部分が,東にわずかに凸になりながら約60゜〜70゜で傾斜していた.また,トレンチ西端の基盤岩内では,基盤岩中にほぼ水平な亀裂が観察され,基盤岩中の層相の変化の境界となっているのが確認された.いずれも古い時期に活動した断層の可能性があるが,被覆層には変位が認められないことが、少なくともTO−2で確認された最新の断層活動とは連動していないようである.