(1)TO−1トレンチ

平成9年度の調査では,f17露頭から南東方向へ山地と谷底平野の境界が直線的に続いており,断層崖である可能性が高いと考えられていた.また,f17露頭の南東約 100mには閉塞丘が認められていた.これらの事項から,断層は山地と閉塞丘の間の鞍部を通過している可能性が高いと判断されたことから,TO−1トレンチはこの鞍部で掘削することとした.

トレンチ調査の規模は,トレンチ上面での長さ約30m,同幅約6m,深さ約5mである.トレンチTO−1の全体像を写真3−2−3−1写真3−2−3−2に示す.

また,東西南北の壁面を整形し,詳細に観察を行ない,スケッチを行った.トレンチTO−1のN面(北側壁面)全体のスケッチを図3−2−5−2に,同写真を写真3−2−4に示す.また,S面(南側壁面)全体の写真を写真3−2−3に示す.

トレンチのN面,E面(東側壁面),W面(西側壁面)を詳細に観察し,各壁面との対比を行った結果,TO−1トレンチに分布する層は,被覆層として5層と基盤岩である.

トレンチのN面の層序を基準として,各層について記載する(図3−2−6参照).

写真3−2−3−1 トレンチ全体写真@

写真3−2−3−2 トレンチ全体写真A

図3−2−5−2 トレンチN面写真およびスケッチ図

<被覆層>

地表面ではN2〜N27までのほぼ全域に分布するが,トレンチ底ではN8〜N18にかけて分布する.全体として,基盤岩の谷状の窪みを埋積するように分布している.

被覆層は上位から順に,@床土,Aシルト層,B砂礫層,C砂礫層,Dシルト層が分布する.各層は,層相からさらにいくつかに分けることが可能である.

@床土

耕作土の直下の人工的な地層.やや不均質な砂質粘土層である.N面ではN2〜N15にかけて,トレンチの西側に分布する.明褐色を呈する.

Aシルト層

シルトを主体とする層である.N2〜N25までのトレンチ壁面のほぼ全域に分布する.B砂礫層がつくる浅い皿状の窪みを埋積するように堆積しており,N11〜N12付近で層厚が最も厚く,両端に向かって薄くなる.

層相からさらに4層に区分できる.

A−1礫混じりシルト

弱腐植質なシルト.礫径5〜20mm程度の風化礫が混入し,所々に炭化木片が点在する.暗褐色を呈する.

N2〜N24にかけて,トレンチ壁面のほぼ全域に分布する.下位のA−2の皿状の浅い窪みを埋積するように堆積しており,N13〜N14付近で70cm程度と最も厚く,両端に向かって薄くなる.

A−2腐植質シルト

上位のA−1や下位のA−3に比べて腐植質である.所々に炭化物,木片が混入している.下部には礫径5〜20mmの小円礫が点在する.黒色を呈する.

N2〜N3にかけてと,N5〜N23にかけて分布している.両端からトレンチ中央部のN10〜N11に向かって非常に緩やかに傾斜している.下位のA−3層の皿状の浅い窪みを埋積するように堆積しており,N10〜N11付近で40cm程度と最も厚く,両端に向かって薄くなる. N2付近では下位のA−3を掘り込んだ溝状の堆積構造を示す.

A−3砂混じりシルト

弱腐植質なシルトで,所々に礫径5〜20mm程度の円礫が混入している.炭化木片も点在している.暗青灰色を呈する.

N2〜N23にかけて分布する.下位のA−4を覆って堆積しており,両端からトレンチ中央部のN10〜N11に向かって非常に緩やかに傾斜している.トレンチの西側(N9より西側)で30cm程度とやや厚くなっている.

A−4腐植質シルト

上位のA−3に比べて腐植質であるが,上位のA−2の腐植質シルトに比べて境界がやや不明瞭である.所々に炭化物,木片が混入している.下部には礫径5〜20mm程度の小円礫が点在する.黒色を呈する.

N3〜N2にかけて,下位のB層以下の上面の凹凸を埋めるように堆積しており,両端からトレンチ中央部のN11〜N12に向かって非常に緩やかに傾斜している.N11〜N12付近で最も厚く,最大層厚は80cm程度である.

B砂礫層

砂礫を主体とする層である.N11〜N27までのトレンチ壁面の中央から東側に分布するC砂礫層と基盤岩を削り込んだ浅い谷状の窪みを埋積しており,全体として西に向かって緩やかに傾斜しているC砂礫層の凹凸のある上面を埋積しているため,層厚には変化がみられるが,N13付近,N18付近,N24付近が厚い.西端は急に薄くなるが,東端に向かっては徐々に薄くなる.

層相からさらに9層に区分できる.

B−1礫混じりシルト

弱腐植質なシルト.礫径50〜200mmの礫が混入している.

N20〜N27かけて分布しており,全体としては西に傾いたレンズ状である.N25付近で最も厚く40cm程度であるが,両端に向かって薄くなる.A層に覆われ,B−4,B−3,B−2を覆う.

B−2シルト質砂礫

砂礫.マトリックスはシルト分を多く含む.褐灰色を呈する.

N18付近〜N21にかけて最大50cm程度の層厚でレンズ状に分布する.B−3を削り込んで堆積している.A層とB−1に覆われ,B−5とB−3を覆う.

B−3腐植質砂礫

腐植質な砂礫で,礫径50〜100mmの円礫を主体とする.黒褐色を呈する.

N18〜N23にかけて最大40cm程度の層厚で分布しており,全体としては薄いレンズ状をなす.上下面には凹凸がみられる.B−1,B−2に覆われ,B−5とB−4を覆う.

B−4砂礫

礫径50〜100mmの円礫を主体とするが,下部に向かって礫径は大きくなり,最大300mmの円礫を混入している.礫混入率は約70%である.マトリックスはシルト混じり細砂〜中砂である.暗褐灰色を呈する.

N19〜N25にかけて分布しており,全体としてはレンズ状をなす.基盤岩とC層を削り込んで堆積しており,N23〜N24付近で130cm程度と最も厚い.上面は凹凸が大きい.B−1とB−3に覆われ,基盤岩とC層とB−5を覆う.

B−5シルト混じり砂礫

砂礫.マトリックスはシルト分をやや多く含む.褐灰色を呈する.

N15〜N20にかけて最大60cm程度の層厚でレンズ状に分布する.B−3,B−4によって削り込まれている.A層とB−3,B−4に覆われ,C層とB−7,B−6を覆う.

B−6砂礫

礫径150〜300mmの円礫を主体とする.礫混入率は約70%である.マトリックスはシルト混じり細砂〜中砂である.暗褐灰色を呈する.

N16〜N19にかけて分布し,最大100cm程度の厚みのあるレンズ状をなす.C層とB−9を削り込んで堆積しており,N18付近で最も厚い.B−5に覆われ,C層とB−7,B−8,B−9を覆う.

B−7シルト混じり砂礫

砂礫層.マトリックスはシルト分を含む.最下部には礫径50〜200mmの円礫が混入する.褐灰色を呈する.

N13〜N17にかけて分布し,最大層厚80cm程度で全体としてレンズ状をなす.B−9,B−8を削り込んで堆積している.A層とB−5に覆われ,B−8,B−9を覆う.

B−8礫混じり砂質シルト

砂質シルト.礫径100〜200mmの礫を混入している.

N14〜N17にかけて30cm程度の薄層として分布する.B−9を削り込んで堆積しており,B−7によって削り込まれている.B−6,B−7に覆われ,B−9を覆う.

B−9砂礫

礫径150〜300mmの円礫を主体とする.礫混入率は約70%である.マトリックスはシルト混じり細砂〜中砂である.暗褐灰色を呈する.

N11〜N18にかけて分布し,全体としてN15付近を境として2つのレンズ状をなす.どちらもC層を削り込んで堆積しており,西側のものはB−7によって,東側のものはB−6によって削り込まれている.N12〜N13付近では150cm,N17付近では90cmと厚い.A層とB−7,B−8に覆われ,C層を覆う.

C砂礫層

砂礫を主体とする層である.N3〜N22までのトレンチ壁面の中央よりの全域に分布する.Dシルト層と基盤岩を削り込んだ広い谷状の窪みを埋積している.C砂礫層によって削り込まれているため,層厚には変化がみられるが,N9〜10付近,N16〜17付近,N20付近が厚い.東端は急に薄くなるが,西端に向かっては徐々に薄くなる.

層相からさらに3層に区分できる.

C−1 砂混じりシルト

シルト.礫径50〜200mmの礫が点在している.暗褐色を呈する.

N3〜N11にかけて分布し,最大層厚は30cm程度で,全体としてごくわずかに東に傾斜している.N4付近では基盤岩内の袋状の穴を埋積している.A層とB−9に覆われ,基盤岩とD層とC−3,C−2を覆う.

C−2腐植質砂礫

腐植質な砂礫で,細粒分を多く含む.礫は径50mm程度の円礫を主体とする.黒褐色を呈する.

N7〜N11にかけて分布する最大層厚30cm程度の薄層である.B層とC−1に覆われ,C−3を覆う.

C−3砂礫

礫径50〜200mmの円礫を主体とし,最大礫径は400mmである.礫混入率は約60%である.マトリックスはシルト混じり〜シルト質で上位の砂礫に比べ,細粒分の含有量が多い.所々にほぼ水平なシルトの薄層(層厚5cm程度)を挟む.褐灰色を呈する.全体に締まっており,C層の主部をなす.

 N5〜N22にかけて分布し,全体としてN13付近を境として2つのレンズ状をなす.どちらもD層と基盤岩を削り込んで堆積しており,B層によって削り込まれているため上面は凹凸が激しい.N9〜10付近で130cm,N16〜17付近で180cm,N20付近で190cm程度と厚くなっている.B層とC−1,C−2に覆われ,基盤岩とD層を覆う.

Dシルト層

シルトを主体とする層である.N5〜N20までのトレンチ壁面の中央よりの部分と,N22付近にわずかに分布する.基盤岩がつくる谷状の窪みを埋積するように堆積している.下面が確認できていないので,層厚は不明であるが,両端に向かって薄くなる傾向が認められる.

層相からさらに5層に区分できる.

D−1シルト質砂礫

礫径5〜30mmの礫を主体とする.礫は新鮮で硬質.青灰色を呈する.N9〜N16にかけての上部には,明黄褐色を呈する酸化帯がみられる.

N9〜N16にかけて25〜40cmの薄層として分布する.N16付近で東に急に撓んでいる.C層によって削り込まれている.C層に覆われ,D−3,D−2を覆う.

D−2シルト

シルト.分布が3箇所に分かれており,N5〜N10にかけて分布するシルトには,凝灰岩の礫が混入しており,面上に並んでいる.礫の配列は見かけ上30°で東に緩やかに傾斜している.淡褐色を呈する.

N5〜N10とN17〜N20にかけてと,N22付近にわずかに分布する.西側のN5〜N10にかけて分布するものは,基盤岩とD−3以下のD層を削り込んだ谷状の窪みを埋積しており層厚は140cm程度以上である.C層とD−1に削り込まれ,基盤岩とD−5,D−4,D−3を覆っている.中央部のN17〜N20にかけて分布するものは,基盤岩とD−4以下のD層を削り込んだ谷状の窪みを埋積しており層厚は90cm程度である.C層に削り込まれ,基盤岩とD−5,D−4を覆っている.N22付近のものは,C層とB層に削り込まれ,基盤岩に付着するように残っている.

D−3有機質シルト

弱有機質なシルト層で,所々に木片が点在する.暗青灰色を呈する.

N9〜N16にかけて30cm程度の薄層として分布する.N16付近で東に急に撓んでいる.4層と5−2によって削り込まれている.C層とD−1,D−2に覆われ,D−4を覆う.

D−4砂混じり〜砂質シルト

粗砂〜小礫を不均一に混入するシルト.青灰色を呈する.

N9〜N16にかけて60cm程度の薄層として分布する.C層とD−2によって削り込まれている.C層とD−2,D−3に覆われ,D−5を覆う.

D−5有機質シルト

弱有機質なシルト.トレンチ底部付近に木片の混入部を薄層状に挟む.暗青灰色〜暗灰色を呈する.

N9〜N19にかけて,70cm以上の層厚でトレンチ底に分布する.D−2によって削り込まれている.D−2,D−4に覆われ,基盤岩を覆う.

<表土>

N面,S面では,トレンチ掘削時に耕作土を鋤き取っているためみられない.W面,E面では,基盤岩を直接覆って薄く分布する.

<基盤岩>

細粒の凝灰岩で,礫径5〜20mmのくさり礫が混入している.

<N面>

基盤岩は,西側のN0〜N8にかけてと,東側のN18〜N27にかけてみられる.

西側ではN2付近までは直接地表まで分布するが,N8に向かって基盤岩上面は下がり,N8付近でトレンチ底に至る.基盤岩上面は凹凸があるものの,全体としては東に傾斜している.一方東側ではN26付近までは直接地表に露出するが,N18に向かって基盤岩上面は下がり,N18付近でトレンチ底に至る.基盤岩上面は凹凸があるものの,全体としては西に傾斜している.

西側の凝灰岩は全般に細粒となり,くさり礫はほとんど点在しないが,N1とN2付近に,くさり礫が密集する部分が層状に2層みられる.くさり礫の密集部分は,東にわずかに凸になりながら約60゜〜70゜で傾斜している.N0付近には3層目のくさり礫の密集部分がみられ,W面へと連続している(図3−2−7−1,写真3−2−6−1).

東側の凝灰岩は全体にくさり礫が混入している.層相から大きく3つに区分でき,上部と下部はかなりの量のくさり礫を含むが,中部はくさり礫の混入量が少なく,細粒の凝灰岩内に脈状の白色〜灰色の粘土がみられる.下部のくさり礫をかなり含む部分と中部のくさり礫が少ない部分の境界は,ほぼ水平になっている(垂直レベルで+3付近,図3−2−8−1,写真3−2−7−1).

<W面>

基盤岩は,W面全体に分布している.層相から大きく3つに区分できる.犬走りの小段より下側には,主としてくさり礫はほとんど点在しない細粒の凝灰岩が分布する.その上部には,くさり礫を多量に含む層相の凝灰岩が分布するが,混入しているくさり礫の大きさで,右下部の礫径が大きい部分と,左上の礫径が小さい部分に区分できる.右下のくさり礫を多量に混入する部分では,礫径は50〜200mmが主体で,最大礫径は500mmに達する.左上のくさり礫を多量に混入する部分では,礫径は2〜5mmが主体で,細礫層である.くさり礫を多量に混入する部分は,いずれもN面のN0付近にはみられた3層目のくさり礫の密集部分が,トレンチW面と走向傾斜がほぼ一致して現れていると考えられる(図3−2−7−2,写真3−2−6−2).

<E面>

基盤岩は,E面全体に分布している.層相から大きく3つに区分できる.上部と下部はかなりの量のくさり礫を含むが,中部はくさり礫の混入量が少なく,細粒の凝灰岩内に脈状の白色〜灰色の粘土がみられる.下部のくさり礫をかなり含む部分と中部のくさり礫が少ない部分の境界は,南から北に向かって非常に緩やかに傾斜している(垂直レベルで+3付近,図3−2−8−2,写真3−2−7−2).

<S面>

基盤岩は,西側のS0〜S10にかけてと,東側のS18〜S27にかけてみられる.

西側ではS5付近までは直接地表に露出するが,基盤岩上面はS10に向かって下がり,S10付近でトレンチ底に至る.基盤岩上面は凹凸があるものの,全体としては東に傾斜している.一方東側ではS26付近までは直接地表に露出するが,基盤岩上面はS18に向かって下がり,S18付近でトレンチ底に至る.基盤岩上面は凹凸があるものの,全体としては西に傾斜している.

西側の凝灰岩は全般に細粒となり,くさり礫はほとんど点在しないが,S1とS2付近に,くさり礫が密集する部分が層状に2層みられる.くさり礫の密集部分は,東にごくわずかに凸になりながら約74゜で傾斜している(図3−2−7−3,写真3−2−6−4、写真3−2−6−5).

東側の凝灰岩は全体にくさり礫が混入している.層相から大きく3つに区分でき,上部と下部はかなりの量のくさり礫を含むが,中部はくさり礫の混入量が少なく,細粒の凝灰岩内に脈状の白色〜灰色の粘土がみられる.下部のくさり礫をかなり含む部分と中部のくさり礫が少ない部分の境界は,ほぼ水平となっている(垂直レベルで+2.5付近,図3−2−8−3,写真3−2−7−3).

トレンチTO−1の壁面から14C年代測定用試料を採取し,年代測定を実施した.測定結果を表3−2−4に示す.Dシルト層下部で,トレンチ壁面で観察できる被覆層のうち最も下位の地層であるD−5層に含まれる木片からは24,830±150y.B.P.,有機質シルトからは10,900±180y.B.P.,B砂礫層下部のB−8層からは9,170±40y.B.P.の値を,Aシルト層下部のA−4層からは3,550±60y.B.P.の値を得た.

表3−2−4 TO−1トレンチの14C年代測定結果

O−1トレンチでは,N2〜N27までのほぼ全域に分布するA層は,雨滝−釜戸断層による変位を受けていない.また,B層,C層の砂礫主体層にも変位は認められない.D層はD−2層を除きほぼ水平な堆積構造を保持している.これらのことから,トレンチ壁面に見られる約25,000年前以降堆積した被覆層は,断層活動による変位を受けていないことが明らかになった.したがって,ここでの雨滝−釜戸断層は約25,000年前以降活動していないか,被覆層が分布する谷筋ではなく,その西側あるいは東側の基盤岩内を主断層が通っているものと考えられる.

トレンチTO−1のN面・S面においては,トレンチ東端付近で凝灰岩中のくさり礫の密集する層状の部分が2層みられ,東にわずかに凸になりながら約60゜〜70゜で傾斜しているのが観察された.また,W面およびN面・S面の西端付近では,基盤岩中にほぼ水平な亀裂が観察され,基盤岩中の層相の変化の境界となっているのが確認された.これらの構造は古い断層を示している可能性があるが,少なくとも最近約1万年以内に堆積した地層に変位を及ぼしていない.

なお,TO−1の 1/20スケッチは付図として添付した.