(1)観察結果

トレンチ壁面の観察及びスケッチは、E面、W面、S面、N面の4面を対象として実施した。トレンチで観察される地層は、表2−3−4−1の平成10年度の地質層序を参考にして地層区分を行った。平成10年度の結果でも明らかなように、立川断層の下盤側のトレンチと、上盤側のトレンチで青柳礫層の上面にのる地層に違いがある。河川堆積物は青柳礫層上位にのるが、それよりも上位では、下盤側では河川堆積物の上位に黒ボク土が主に分布し、青柳ローム層が一部削り残されて分布する。平成12年度に調査したすべてのトレンチで断層に近い箇所(道路側)では青柳ローム層あるいは二次的な青柳ローム層が小規模に分布し、その上位に黒ボク土層が分布する。各トレンチでは概ね表2−3−4−1での次のような地層が分布する。

トレンチ5では、青柳礫層、河川堆積物層T及びU、青柳ローム層T、黒ボク土W及び耕作土である。トレンチ6では、河川堆積物層Uが分布せず、そのかわりに河川堆積物層Vが分布するほかは、トレンチ5と同様の堆積物である。トレンチ7では、青柳礫層、青柳ローム層、黒ボク土層Vをのぞいた黒ボク土層(スケッチ図では連続性に乏しく黒ボク土層で一括表現)および耕作土である。トレンチの位置は、これらの堆積物の分布状況からみても、上盤側と下盤側の境界付近に位置しているといえる。トレンチの各面の写真はスケッチ図にあわせた。

@ トレンチ壁面の地質構成、地質年代等

イ) 青柳礫層

礫径の平均は、1〜4cmで、最大礫径10〜29cmの亜角〜亜円礫を伴う砂礫層。礫種は砂岩を主体とし、チャート等が混入する。基質は部分的に細粒砂が混在するが、多くは粗粒砂〜細礫からなる。今回掘削したすべてのトレンチで確認される。トレンチ4では、礫層中に細粒砂層や細粒火山灰層が挟在する。

ロ) 河川堆積物層T

青柳礫層の直上に分布する。黒雲母を含む灰白・褐色の火山灰質細粒砂〜シルト層や細粒火山灰質シルト層が挟在する、細〜中粒砂である。層相上は川砂状で、トレンチ5および6でのW面、E面の中央よりN面側では一部やや大きめのリップルもあり、流速のある環境にあったことを示唆している。細粒砂〜シルト層は、トレンチ5,6で観察されるが、トレンチ7までは分布がおよんでいない。同様の地層はB−2孔で3cm程度確認され、南側への連続性はとだえている。

河川堆積物層T中に混在した砂質黒色土層の放射性炭素年代測定を実施したが、W面で2,100±60yBP、E面で2,790±40yBPであった。ここで得られた年代測定値は、以下の理由で今回は不採用とした(表3−3−1のみ表示)。

・河川堆積物層Tは、地質層序では青柳礫層と河川堆積物Uにはさまれ、河川堆積物層は、青柳ローム層よりも下位に分布することから、約14,000〜12,000年前の堆積物である。

・トレンチ5での採取した試料の層相は、河川堆積物層上位の黒ボク土に類似し、木片等の混入物ではない。また堆積状況は、河川堆積物層のラミナ(堆積構造)に斜交するように分布する。また他の堆積物とかなりシャープに接しており、あとから混入したような状態である(写真1写真2)。

・トレンチ5では、河川堆積物上位には黒ボク土層Wが分布し、それよりも古い黒ボク土層は、削剥された可能性があり、分布していない。現在のこる黒ボク土層Wの下底から採取した試料までは約50cmであり、生物混入跡の可能性もある。試料の年代からすると、分析した試料は平成10年度に命名した黒ボク土層Vにあたるであろう。

ハ) 河川堆積物層U

茶褐色〜灰褐色の礫混じり細〜粗粒砂、砂礫層の互層。全体に固結は良好でなく崩れやすい。砂礫層は、やや連続性に欠けるが4〜5層程度挟在し、礫径は、0.5〜4cm程度である。今回は、河川堆積物層Uはトレンチ5でしか観察されず、しかもN面の掘削がより道路側に進むと分布が欠損するようにトレンチの中でも連続性に欠ける。ただし平成10年度では、トレンチ3’で確認された。どちらのトレンチでもどちらかというと道路側(トレンチでのN面)に分布が片寄る。堆積物の粒径はやや粗粒であり、一部トレンチのW面で小さいリップルが認められ、N面では南側に傾いた平行ラミナ(面では見えている面積が狭いので大きく見れば大リップルの一部かもしれない)がみられる。このような堆積の状況から河川堆積物が吹き溜まりのような状態で堆積し、深さは浅い場合は流速が速いことが予想される。

ニ) 河川堆積物層V

淡灰褐色〜淡黄褐色の火山灰質細粒砂〜シルト層。いわゆるフラッドローム層で、段丘堆積物の凹凸を埋積する段丘化直前の洪水堆積物である。微細な黒雲母が多数混入し、一部石英、長石、有色鉱物を含む。トレンチ6で確認される。

河川堆積物は、一部インターフィンガーの関係にあり、それぞれ堆積時期にそれほど時間的間隙はないと判断している。またこれらの河川堆積物は、層相(とくに堆積物の粒度や堆積構造からみた流速の推定など)から青柳礫層の供給源と同じ多摩川起源の堆積物であると考える。

写真1 トレンチ5W面のW3〜W4の間表層から深度2m付近のところの混入物

写真2 トレンチ5E面の河川堆積物中の混入物。観察によれば、ラミナに斜交するように分布する。

ホ) 青柳ローム層

風成の褐色ローム層。粒径1〜4mmの橙褐色スコリアが混入するのが特徴である。黒雲母が少量含まれる。各トレンチで確認されるが、このあたりでは平成10年度での青柳ローム層Uとした二次的な堆積状態を示す淡黄褐色〜淡褐色の砂質風化火山灰〜風化火山灰層に層相は近い。このため今回の区分は青柳ローム層として、T及びUの区分は行わない。

ト) 黒ボク土層T

黒ボク土層は、平成10年度には、色調や含水状況、混入物、人工的な状態の違い等を考慮し、4層に区分した。T層は、暗褐色の風化火山灰層であり、上位に比べやや粘性に富む。分布はトレンチ7のみである。放射性炭素年代分析の結果、5,010±70yBP〜5,560±80yBPである。

チ) 黒ボク土層U

層相的には代表的にトレンチ7で観察される。φ1〜4mmの褐色スコリアや黒雲母が含まれる。

この層相の上位には、黒褐色の風化火山灰層からなる。放射性炭素年代値は、3,330±70である。

リ) 黒ボク土層V

この層は、褐色の植物跡が多量に密集するのが特徴で、全体は、暗褐色の風化火山灰層〜暗褐色風化火山灰質細粒砂〜シルト層であったが、今回のトレンチでは観察されない。

ヌ) 黒ボク土層W

黒褐色の風化火山灰層で、黄褐色の径1〜2mmの岩片が混入する。乾燥すると細かいブロック状の割れ目が発達し、特徴的である。全体に人口的な作用が加わっている様相で、色調も下位の黒ボク土層にくらべ褐色を帯びる。今回のトレンチ5、6でみられるのはこの黒ボク土層であるとおもわれる。トレンチ7でも最上部の黒ボク土層がこれにあたる。ここでの放射性炭素年代値は、1,530±60〜2,050±60yBPの範囲に対応し、平成10年度の結果とも調和する。

平成12年度のトレンチ掘削地点付近は、かなり表層は人工的な手が加わっており、黒ボク土層Wは、比較的入り交じった状況が予想される。放射性同位体による年代値も概ね上記のような範囲に収まっているが、時代的な逆転はすくなからず発生していることからも、層自体が乱れていることを示唆している。

ル) 表土・耕作土層

黒ボク土にくらべ、人工の手が加わり、褐色を呈する。層相は火山灰質シルト層で、植物片や炭質物(炭)が混在する。層厚は比較的厚い。平成10年度での炭素同位体年代値で、270±40yBPがでている。

A 断層運動による変形構造

各トレンチでは、明らかに活断層と認定される線状模様及び断層面は認められなかった。しかもトレンチ5及び6の箇所で河道の影響によるチャネル構造が発見され、断層の走向方向(北西〜南東方向)に対して直交するような凹状 の構造であり、この構造と平成10年度での地層の変形の関係が今回検討点としてあげられた。その結果、平成10年度のトレンチ3’による観察結果や今回のトレンチ6においての観察結果からも、トレンチ3’で観察された地層の構造は、断層活動に伴う変形構造であると思われる。平成10年度の観察結果は以下の通りである。

・青柳礫層はE面の南端で急激にセリ上がりが見られ、かつS面西側に向かって押し上げられたような状況が観察される。これは、断層活動による上盤側の巻き上がり状況が生じた結果であると思われる。

・青柳礫層の上位に分布する河川堆積物層Tは、青柳礫層と同様の変形がみられ、S面では、青柳礫層によって挿入された現象が確認される。

・S面では、おなじく河川堆積物層Vに青柳礫層が入り込んだような形態がみられる。これを堆積構造で説明するのはかなり無理があると思われる。河川堆積物層Uは、TとVに挟まれており、直接の現象が認められないとしても変形をうけている可能性は高い。

今回のトレンチ5のE,W面およびトレンチ6W面では、ほぼ水平に堆積した礫層や砂層からなる青柳礫層を削り込んで河川堆積物が堆積したチャネル構造がみられ、とくにトレンチ6W面では明瞭である。しかしながらトレンチ6E面における青柳礫層の変形は礫層および砂礫層がほぼ鉛直に変形した堆積物変形であり(図2−3−4−4の写真)、チャネル構造だけによるものではない。おそらく図2−3−4−4に示すように、現在残っている変形は、チャネル構造形成後の削り残りがみられている可能性がある。断層側に落ち込んだような構造になっているのは、断層活動に伴う上盤側の動きによる一種の圧縮作用による構造とも考えられる。いずれにしても下盤側での変形の向きなどから主断層そのものである可能性は少ない。

チャネル構造は、地下レーダー探査結果などからも出現しているように、断層の上盤側と下盤側の境界付近に形成されやすいと思われる。おそらく断層活動による変形後にチャネル構造が形成され、その箇所を埋積するように河川堆積物が分布している可能性が高い。前述したように、青柳礫層の高まりの箇所が、B−3孔付近に認められ、河川堆積物はB−3孔周辺より南側には分布していない。それはB−3孔周辺の高まりによって河川堆積物の分布が遮断されたとも考えられ、トレンチでの青柳礫層の変形、チャネルの形成、河川堆積物の堆積が行われた可能性が高い。