(2)採取試料の分析結果

今回のボーリング孔では、上総層群よりも上位層準の礫層部は微化石分析等の試料としては不適であり、また上総層群もさほど深く掘削しておらず、全体の古環境の変遷を検討することはできない。コア全体をみても火山灰等の挟在もなく、このため今回は、磁気分析を行い、上総層群の磁化方位を測定し、時代の推定に役立てた。さらにイベント堆積物の鑑定のため、分光測色分析および帯磁率を一部のコアについて実施した。

@ 古地磁気測定

分析試料の採取にあたっては、なるべく単磁区や疑似単磁区強磁性粒子の多い粘土やシルト質の箇所を中心にサンプリングを実施したが一部は細粒の砂層の箇所もある。試料はポリカーボネイト製のキューブ(容積7cc、夏原技研製)に封入し、測定試料とした。自然残留磁化の測定は、夏原技研製SMD−88型スピナー磁力計を用いた。また必要に応じて、多段階交流消磁実験も実施した。交流消磁測定は、2−G超伝導磁力計に付着した定置交流消磁装置(最大交流地盤100mT)を使用した。   

無定方位のコアはほとんど鉛直に採取されており、その伏角は復元できるが、偏角は全くもとまらない。残留磁化方向は主成分分析法(kirschvink,1980)により求めた。

谷保地区でのボーリング試料から古地磁気測定用サンプルは、B−1孔で7試料、B−2孔で11試料、B−3孔で10試料を採取した。また、平成10年度のボーリング試料で三ツ木B−2孔から20試料をサンプリングし、平成10年度データを補った。

各ボーリングのサンプルの解析結果一覧表は、表2−2−4−1表2−2−4−2表2−2−4−3表2−2−4−4に示した。また残留磁化解析結果柱状図を図2−2−4−3図2−2−4−4図2−2−4−5図2−2−4−6に示した。

測定結果は、B−1では、サンプルがすべて砂であり、初期磁性が抽出できないため、交流消磁ができず、正確な磁化方位が得られなかった。B−2およびB−3は、磁化鉱物がかなり少なく、残留磁化が非常に弱い結果となった。ただし、明らかに逆帯磁の領域にあり、松山期に対比される。

平成10年度の三ツ木B−2では、1年前の試料であったが、保存状態がよく、良好な結果が得られた。深度33m付近までの試料は、すべて逆帯磁の松山期に対比されるが、それ以深の62m付近までの試料は、交流消磁後も正帯磁を示した。これは、ハラミロイベントか、さらに古い時代のオルドバイイベントの可能性もある(図2−2−4−7参照)。いずれにしても62m以深では再度逆帯磁を示し、松山逆帯磁であることはほとんど相違ない。

平成10年度の三ツ木ボーリングの地質対比では(図2−2−4−8参照)、三ツ木B−1は、ほとんど逆帯磁で、正帯磁の箇所は確認できていないが、深度80m〜95mの間の磁性の高保磁力成分が少なく、また測定可能な細粒分試料は少ないが、低保磁力成分は、ほとんど正帯磁の箇所があり、その箇所と三ツ木B−2の深度40m〜60m付近(今回の正帯磁)が古地磁気結果からも対比できる可能性がある。

表2−2−4−1 B−1自然残留磁気測定結果一覧表

表2−2−4−2 B−2自然残留磁気解析結果一覧表

表2−2−4−3 B−3自然残留磁気解析結果一覧表

表2−2−4−4 三ツ木B−2自然残留磁気解析結果一覧表

図2−2−4−3 B−1自然残留磁化総合解析結果図

図2−2−4−4 B−2自然残留磁化総合解析結果図

図2−2−4−5 B−3自然残留磁化総合解析結果図

図2−2−4−6 三ツ木B−2自然残留磁化総合解析結果図

図2−2−4−7 500万年依頼の地磁気変化(Cande and Kent,1992)

 (黒塗りは現在と同じ方向の正帯磁期)

図2−2−4−8 三ツ木地区地質対比図

 Jaramillo Olduvai Reunion

A 初磁化率の測定

初磁化率計(Bartington MS2, Sensor type B)を用いて堆積物の磁気特性や火山灰層の有無を明らかにするため初磁化率(帯磁率)を測定する。

初磁化率は、印加磁場により、誘導される磁化の係数として表され、強磁性鉱物の種類や量および粒径を反映している(福間・鳥居,1998)。

初磁化率の測定には、Bartington Instruments Ltd.製初磁化率計Model MS−2、検出器は、同社製、36mm Internal diameter Model MS−2Bを使用した。測定器の印加交流磁場は、80A/m(地球磁場の約2倍)、交流磁場の周波数は465HZ、測定分解能は2×10−6SIである。検出器のなかには測定試料をキュービックごと入れる非破壊式で測定を行い、同一サンプルを3回測定し、その値の平均値を湿潤重量で割って規格化した値を初磁化率とした。また、補正は5試料おきに標準試料を測定することで行う。

湖底堆積物中の初磁化率は、主に磁性鉱物量を推定するという目的で測定される。とくに火山灰層中には、火山ガラスともに多くの磁性鉱物が堆積しているため、肉眼では火山灰層を検出できない場合においても微量な磁性鉱物の存在により、その層準が初磁化率のピークとなってあらわれる。

測定はB−2孔およびB−3孔の粘土・シルト層を中心に実施した。その結果を図2−2−4−9−1図2−2−4−9−2に示した。これによれば上総層群中の変化は、粘土・シルト層から砂層に変化することによって、帯磁率が上昇する結果となった。