1)観察結果
観察の結果、本トレンチでの地層は、下位より沖積低地を構成する礫層、細粒砂〜シルト層、火山灰質シルト層および二次的なローム層と最上位の埋土層からなることが判明した。トレンチ壁面の写真はスケッチ図にあわせて示した(図2−2−4−4、図2−2−4−5参照)。
@トレンチ壁面の地質構成、地質年代等
イ) 礫層
礫径の平均は4cmの円〜亜円(一部亜角)で、最大礫径は30cmである。礫種は砂岩主体で、一部ホルンフェルス等が混入する。基質は、青灰色の中〜粗粒砂である。ところにより砂質シルトや腐植土質粘性土が挟在する。礫層中では水平に色調の変化や礫形の相違(上位層準ほど角礫である等)から二分される可能性もあるが、平成9年度の既存資料等からみても今回観察された礫層は、一層準の礫層とした。礫層の上位にチャネル状に分布する腐植土質粘性土中の材片の炭素同位体測定から9,980±80yBPの値がでているが、チャネル構造を埋積した時期のものであろう。
ロ)細粒砂〜シルト層
高有機質の粘土質シルト層が多く挟在した地層であり、細粒分が比較的多いが、部分的には中〜細粒砂が挟在し、ラミナもよく発達する。トレンチ西面の南端では、チャネル状の形状が観察され、チャネルの走向は概ねN60°Eである。この層中では、N面やW面、S面にも波打ち状の形態の波状葉理もみられ、比較的流れのある環境での堆積構造が予想される。この地層中で材片や有機質土から炭素同位体測定を8〜10試料実施したが、若干の逆転はあるものの3,320±70yBP〜3,680±70yBPの範囲の値を示した。この層準での最上位に分布する紫灰色のシルト層中からの木炭片が示した8,970±50yBPの炭素年代値は。産出層準から見て洗い出された可能性が高い。
ハ) 火山灰質シルト層
黄褐色〜明褐色の風化火山灰質シルト層であり、上位ほど黄褐色であり、橙褐色の混入物やところどころに植物片がはいる。各面で同一層準が比較的連続するが、一部E面の南側で不明瞭になるのと、S面で未分布であり、人工的な影響を受けた地層である可能性が高い。
ニ) 二次ローム層
二次ローム層は、褐色のローム層の様相を呈するが、E面ではこの層中から石器片が出土したほか、人工的な片鱗を残した平板状の石片が確認された。基質には褐色のパッチ状の模様がはいり、また、S面では下位層準の砂層のブロックを多数取り込んでいる。全体的には人工的な影響を受けた地層である。ここでも炭片で5,460±40yBP、5,890±40yBPの値がでているが、産出層準から見て洗い出された可能性が高い。
ホ) 埋土
暗褐色の盛土層で、褐色のロームのブロック(一部破片)やビニール、アスファルト等の人工物が混入する。最上位の20〜30cmは砕石である。
A 断層運動による変形構造等
本トレンチでは、断層活動に伴うと思われる変形構造は確認されなかった。ただし、礫層上位の細粒砂〜シルト層で、擾乱した地層の中で、W面の座標(7.6,1.4)の箇所で、砂層が上方に凸状の形状があり、上部に粘性土が被覆する形態がみられた(図2−2−4−6参照)。これは、液状化により形成された可能性がある。
2) 考察
@ イベントを認定した地層
本トレンチでのイベントが認定される可能性がある地層は、細粒砂〜シルト層であるが、断層そのものの認定がなされたわけではなく、液状化の形跡による間接的な推定である。
A 断層の活動年代
炭素同位体年代測定試料の分析結果では、液状化を受けた細粒砂〜シルト層の地質年代は、約3,320±70yBP〜3,680±70yBPであり、その後に液状化を起こすような地震活動があったと推定される。ただし、その年代以後としか特定できない。
B その他の考察
表2−2−4−1に既存資料による藤橋〜今井地区の地質構成表を示したが、霞川調節池においては、30,000年以前の砂礫層と、10,000年以降の細粒砂〜シルト層および盛土層が今回のトレンチで確認されたと判断できそうである。
前述の図2−2−4−1には、平成9年度の既存ボーリングの位置図を示したが、そのうち今回のスケッチを行ったトレンチに近い、B−B'断面とE−E'断面を検討した(図2−2−4−7および図2−2−4−8参照)。これによれば、既存資料による97−1、98−7および98−5のボーリング結果では、下位より砂礫層、砂泥互層および盛土が分布しており、しかも97−1および98−5の年代試料では、1,970±50yBPおよび1,470±50yBP、2,580±50yBPの値が得られて、今回の3,320±70yBP〜3,680±70の範囲に近い値をとる。しかも図2−2−4−7のB−B'断面でみるように都道よりも西側とは明らかに異なる年代値を記録している。
図2−2−4−9には砂礫層の上面標高を示したが、今井小学校から今回のトレンチ付近を含めて南側では、礫層上面の若干の高まり(といっても20cm〜50cm程度)があり、それよりも北側の霞川沿いでは反対に若干低くなるようである。いずれにしても都道よりも東側では、活断層よりも東側に位置し、平成9年度の結論であるチャネル構造の発達が上流域での古霞湖の決壊による可能性を示唆したが、今回のトレンチの場は、古霞湖の下流域にあり、たえず浸食される環境にあると考えられる。そのため、古い時代の堆積物は浸食され確認できず、しかも新しい(東側よりも)堆積物の層厚もさほど厚くないことが今回確認され、昨年度の予測と概ね調和的である。
表2−2−4−1 既存資料による藤橋地区地質構成表
3) 採取試料の分析
試料の採取位置は、各トレンチのスケッチ図に示した。
@ 花粉分析
花粉分析の抽出方法は、深層ボーリング等の項で前述した。
試料の採取は、各面の細粒砂〜シルト層から採取した。それらの結果は、次の通りである。
E面では、花粉化石はほとんど産出しなかった。一部コナラ亜属、イネ科、アカザ科−ヒユ科がわずかに産出したのみである。
N面では、花粉化石はほとんど産出しなかった。マツ属複維管束亜属、クマシデ属−アサダ属、コナラ亜属、シイノキ属、カエデ属、イネ科、タケニグサ属、ヨモギ属がわずかに産出した。
S面では、樹木花粉の占める割合は効率である。その中でクマシデ属−アサダ属、コナラ亜属、エノキ属−ムクノキ属、トチノキ属、トネリコ属などの落葉広葉樹が比較的高率である。また、常緑広葉樹のアカガシ亜属も比較的高率 である。
W面では、樹木花粉の占める割合は効率である。その中でクマシデ属−アサダ属、コナラ亜属、ニレ−ケヤキ属、エノキ属−ムクノキ属などが比較的高率であり、カエデ属、トチノキ属などもめだち、針葉樹ではスギ属がややめだつ。
この結果、細粒砂〜シルト層の堆積時期は、コナラ亜属、エノキ属−ムクノキ属、クマシデ属−アサダ属などの落葉広葉樹が多産し、常緑広葉樹のアカガシ亜属も比較的高率である。このことから落葉広葉樹林が優勢であり、アカガ シ亜属、シイノキ属などを主体とした照葉樹林も成立しており、温暖な気候であったことが予想される。分析結果表と分布図を表2−2−4−2と図2−2−4−10に示す。
表2−2−4−2 霞川調節池各トレンチ面の花粉化石一覧表
図2−2−4−10 霞川調節池花粉分布図(トレンチS面とW面)
A 珪藻分析
試料の処理方法と珪藻の環境指標種群については、深層ボーリングの項で前述した。
ここでの珪藻分析の採取地点は、花粉分析の箇所と同じで、トレンチの各面のほぼ同一層準の細粒砂〜シルト層中から採取した。
それらの結果は、表2−2−4−3の珪藻化石産出表と図2−2−4−11の珪藻化石分布図に示した。化石の出現率は、堆積物1g中に珪藻殻数が約2.55×102殻5.31×103個であり、完形殻の出現率はかなり低かった。検出された珪藻化石はほとんど淡水種から構成される。具体的な堆積環境は、出現する珪藻化石が少ないことから推定は困難であるが、淡水環境であったことは、層相等からも推定される。
表2−2−4−3 霞川調節池トレンチ面での珪藻化石産出表
図2−2−4−11 霞川調節池トレンチ面での珪藻化石分布図(1.5%以上の分類群を表示)