(1)トレンチA
標準柱状図によるとT−1試料が下位でT−11試料が上位と順番通りに並ぶが、唯一T−8試料はT−11試料の上位に位置している。現地調査によると、T−1,T−2試料はAT火山灰層準と考えられており、T−4,T−5,T−6試料はUG火山灰層準の可能性があると考えられている。
分析は採取された火山灰層について行ったが、T−1,T−4,T−5試料は火山灰層の上下からも試料が採取されている。
・T−1, T−2試料
T−1試料は上下合わせて3試料を分析している。その結果、T−1'(T−1上位試料)とT−2試料は砂粒の半数以上が火山ガラスより構成され、T−1試料では約3割が火山ガラスである。これに対してT−1"(T−1の下位試料)では火山ガラスは微量検出されたに過ぎない。T−1,T−1',T−2試料の火山ガラスの形態はバブル型(偏平型)が主体で、T−1',T−2試料について屈折率を測定したところ1.499−1.500を示した。これはAT火山灰の特徴に合致するものである。重鉱物組成は斜方輝石と不透明鉱物が主で微量の単斜輝石も含まれる。試料の状態を考えると、これら重鉱物には二次堆積したものも少なからず含まれているものと思われる。
以上の結果からT−1,T−1',T−2試料中に多量に含まれる火山ガラスはAT火山灰のガラスと判断され、T−1'とT−2試料の層準がほぼAT降灰期に相当するものと考えられる。
・T−3試料
AT直上の大スコリア状の試料について分析を行った。重鉱物が3割近くを占めその組成は斜方輝石主体(4割)で少量の単斜輝石を含むもので、不透明鉱物が約5割を占める。火山ガラスは微量含まれる程度である。
・T−4, T−5, T−6試料
UG火山灰層準と推定されている層位から採取された試料について分析を行った。このうちT−4,T−5試料についてはその上下の層準からも分析試料が採取されている。UG火山灰は、立川ローム上部ガラス質火山灰と呼ばれ、約12,000年前に関東一円に降灰したとされる火山灰で、斜方輝石が優占する重鉱物組成と、屈折率が1.500〜1.503を示す軽石型・塊状型(急冷破砕型)の火山ガラスを有しているとされる(町田・新井,1992)。
分析の結果、T−4,T−5試料では火山ガラスが20〜50%含まれ、T−6試料では8割近い含有率を示した。重鉱物組成は斜方輝石が優占し不透明鉱物もかなりの量含まれている。火山ガラスの形態はバブル型(偏平型)と軽石型(中間型)よりなり、屈折率をT−4,T−5,T−6の3試料について測定したところ中央値1.499であった。火山ガラスの形態と屈折率からはAT火山灰と判断される。ただし、T−4,T−5試料にはUG火山灰に特徴的な火山ガラスも微量認められ、UG火山ガラスが混入していると判断される。T−6試料にはこのような形態を示す火山ガラスは認られないことから、二次的に堆積したことを示唆している。
・T−7,T−8,T−9,T−10,T−11試料
これらは立川ロームUG層準より上位の火山灰層と考えられている層準より採取された試料である。T−7試料の層位はUG層準の上位20cmとされている。また、T−9試料はスコリアの主体部と思われる部位を濃集して別に分析を行った。
分析値はどの試料も類似しており、鉱物組成は斜長石,重鉱物を主として、10〜20%の火山ガラスを含み若干量の岩片,石英を含んでいる。この中では、T−7試料は岩片が多く、T−8試料には火山ガラスが少ない。火山ガラスの形態は偏平型,軽石型など多様であり、二次的に堆積したことを示唆している。T−11試料のバブル型火山ガラスについて屈折率を測定したところ、1.500とAT火山灰を類推させる屈折率を示した。
重鉱物組成は斜方輝石に微量の単斜輝石が加わる組成であり、不透明鉱物も20〜70%含まれている。
(2)トレンチB
・T−1〜4
いずれの試料中にも鉱物組成中に占める火山ガラスの量は少ない。T−1試料では、重鉱物が90%以上を占める鉱物組成を示し、その8割は斜方輝石である。また、10%近い角閃石が検出されている。T−2試料は、斜長石,重鉱物,石英などの鉱物よりなり、T−1のような極端な鉱物組成は示さないが、斜方輝石が優勢な重鉱物組成のうちの約1割が角閃石である。T−3試料はT−2試料に類似する鉱物組成を示し、重鉱物組成は斜方輝石を主とするもので、単斜輝石,ジルコンを微量含んでいる。T−1,2試料で産出した角閃石も僅かではあるが検出された。今回分析を行った試料で角閃石が検出されたのはこの3試料だけであった。T−4試料は、鉱物組成,重鉱物組成ともにT−3試料に類似する。
(3)ボーリング(97−2孔,97−3孔,97−5孔)
・T−2−1,T−3−1,T−5−1(ボーリング)試料
T−2−1,T−3−1,T−5−1試料は同じ様な鉱物組成,重鉱物組成を示す。鉱物組成は、斜長石が主体で、石英,重鉱物が石英の約半分量程度含まれる組成で、岩片なども多く含まれる。重鉱物組成は斜方輝石を主とするものである。
<参考文献>
新井房夫・町田 洋・杉原重夫(1977):南関東における後期更新世の示標テフラ層.第四紀研究,16,19−40.
古澤 明(1995):火山ガラスの屈折率測定および形態分類とその統計的な解析に基づくテフラの識別.地質学雑誌,101,123−133.
町田 洋・新井房夫(1992):火山灰アトラス.東京出版会,pp.276.
吉川周作(1976):大阪層群の火山灰について.地質学雑誌,82,497−515.
山崎晴雄(1978):立川断層とその第四紀後期の運動.第四紀研究,v.16,n.4,p.231−246.
八王子市石川天野遺跡調査会(1984):「東京・八王子市石川天野遺跡」.
表6−2 青梅市藤橋地区試料の火山灰分析結果