図3−2−34に由比地区での調査位置図を示す。
(1)地形・地質調査結果
図3−2−35に由比地区の地形面解析図を示す。
由比川流域には、約6面の河岸段丘が認められる。
地形・地質調査の結果、調査地の由比川河口付近に広く分布する標高10〜20mの平坦面は、縄文海進期(約8,000〜6,000年前)に形成されたと推定される。
この平坦面に変位地形は認められないが、縄文海進期と推定される段丘面の堆積物と入山断層の関係を調査し、新しい時代の入山断層の活動履歴を把握することを目的として、調査地を選定した。
(2)浅層反射法探査結果
基盤岩上面の形状および入山断層の位置を把握することを目的として、図3−2−34に示す主要地方県道富士富士宮由比線沿いに浅層反射法探査を
1km区間で実施した。
以下に、解析処理のパラメータとその結果について記述する。なお、解析処理例は別冊資料集にまとめて添付した。
@オリジナル波形
別冊資料集(2−13〜2−15)に発震点940,670,550,370,160,30mのオリジナルデータ波形例を示す。なお、オリジナル記録は磁気テープにSEG−Yフォーマットにて収録したものを別途提出物として提出する。受振点590〜570m及び120〜110mは橋の上にあり、地震計は設置されていない。
測定した日中は県道の交通量が多いため、発震点から遠方の受振点で記録されたデータにはノイズの影響が強く認められる。また、受振点680〜
600mでは工場の影響と思われる、定常的なノイズが認められる。 図3−2−34 由比地区地形面解析図(縮尺1/10,000)
図3−2−35 由比地区調査地位置図(縮尺1/2,500)
Aフィルター処理
別冊資料集(2−17〜2−19)に発震点940,670,550,370,160,30mの静補正およびバンドパスフィルター処理まで行った結果の記録例を示す。
静補正の最終データは標高20mとした。バンドパスフィルターの通過周波数帯域は30〜150Hzとした。
このバンドパスフィルターによって、表面波および、通過車両によるノイズは大きく軽減された。この結果、反射波は、測線全体を通して60〜70msec程度までしか認められず、受振点170〜130mでは、電気的な高周波のノイズがのっており、S/N比が良くない。
別冊資料集(2−20〜2−31)にデコンボリューションおよびAGC処理まで行った結果の記録例を示す。
デコンボリューションには、スパイキングデコンボリューションを用いた。デコンボリューションのオペレータ長を40msec、80msec、120msecと変えて、それぞれの結果によるショット記録を比較した。ノイズは0.1%とした。
この結果、オペレータ長は80msecが最適であると判断された。またAGCのオペレータ長は100msecとした。
B速度解析・CDPスタック
各種フィルター処理を施した結果にCDPソーティングを行った後、速度解析を行った。
別冊資料集(2−8)に速度解析により求めた速度テーブル、別冊資料集(2−4)にその速度テーブルを用いてCDP重合を行った結果(時間断面)を示す。
受振点0〜400mでは20〜40msec、受振点400〜500mでは40〜70msec、受振点500〜1000msecでは50〜70msecまで有意な反射波が認められが、100msec以上では反射波がほとんど認められない。
図3−2−36−1と別冊資料集(2−5)にマイグレーション処理結果図を示す。
マイグレーション時に用いる速度テーブルは、実際の地盤の速度に近い値を用いることが望ましいが、時間断面にスタック速度より推定した区間速度を用いてマイグレーションを行うと、ひずみが大きく現れることがある。そこでマイグレーションに用いる速度を全測線においてコンスタントにした場合と、スタック速度より推定した区間速度を用いた場合の時間断面の比較を行った。マイグレーションによるディフラクションパターンの解消とひずみの現れかたの兼ね合いを観察した結果、本測線においてはスタック速度より推定した区間速度が最適と判断した。マイグレーションに用いた速度テーブルを別冊資料集(2−9)に示す。
C深度変換
別冊資料集(2−6)に時間断面(マイグレーション前)に対し深度変換処理を行った深度断面を、別冊資料集(2−10)に深度変換に用いた速度テーブルを示す。深度変換に用いる区間速度は、地下浅部はボーリングデータとトモグラフィー的速度構造解析結果より、深部はスタック速度より推定した。
深度変換結果(深度断面)をみると、受振点 0〜400mにかけては深度10〜15m、受振点400〜500mでは20〜45m、受振点500以降では25〜40mにかけて有意な反射波が認められる。全測線にわたって、深度100m以深からの顕著な反射波は認められない。
別冊資料集(2−5)に、マイグレーション後の時間断面に対し深度変換処理を行った結果を示す。また、図3−2−36−2にマイグレーション後の深度断面をカラー表現をしたものを示す。
Dトモグラフィー的速度解析
図3−2−37と別冊資料集(2−33、2−35)に走時曲線と、初期速度モデルを示す。
また、別冊資料集(2−34)に解析結果をモデルとしてコンピューターを用いて計算した理論的な初動走時(理論走時)と、観測走時を示す。
理論走時と観測走時はほぼ一致しており、解析結果は観測されたデータ(走時曲線)を満足している。
別冊資料集(2−36)にトモグラフィー解析の解析結果を示す。
基盤岩上面を2.0km/secとすると、受振点0〜400mでは標高約10mでほぼ一定であり、受振点400〜500mにかけて徐々に高度を下げ、受振点500〜1,000mでは標高約−20m付近でほぼ一定であることがわかる。
図3−2−36−1 由比地区浅層反射法解析結果図(時間断面) (縮尺1/5,000)
図3−2−36−2 由比地区浅層反射法解析結果図(深度断面) (縮尺1/5,000)
図3−2−37 由比地区の走時曲線及び速度構造モデル
本解析結果より、屈折波から決定できる速度構造の精度は、最深で約50mと推定できる。この基盤上面の変化の形状は、反射法から求めた時間断面の結果と良く一致している。
E探査結果
浅層反射法探査から得られた反射面は、基盤岩上面からものが、受振点400〜500m付近より西側では深度約10m付近に、東側では深度約30〜40m付近に明瞭に認められる。
受振点400〜500m付近で基盤岩上面の標高に約30mの比高差が認められるが、この間は急激に変化するのではなく、基盤岩上面が傾斜約20゚で緩く東に傾斜している。
また、基盤岩中の反射面はほとんど認められない。これは、断層東側が蒲原礫層、西側が浜石岳層群の凝灰角礫岩を主体とする塊状な岩盤よりなるため、深部の反射面が検出されなかったものと推定される。
(3)ボーリング調査結果
ボーリング調査は、浅層反射法探査結果より把握された沖積層と基盤岩の地質状況を確認するため、探査測線付近でYU−1(測点725m、L=40m)、YU−2(測点650m、L=45m)、YU−3(測点480m、L=41m)と、YU−4(測点415m、L=20m)の4孔を実施した。
図3−2−38−1〜図3−2−38−4に由比地区のボーリング調査結果概要図を示す。
ボーリング調査で確認された地質は、沖積層と蒲原礫層、浜石岳層群の凝灰角礫岩である。基盤岩がYU−1とYU−2で蒲原礫層、YU−3とYU−4で浜石岳層群であることから、入山断層の位置はYU−2とYU−3間にあると推定される。
基盤岩の上面の標高は、浅層反射法探査から推定された標高とぼぼ一致している。
沖積層は褐色〜暗褐色砂礫を主体とし、下部に黄灰〜暗青灰色シルトの薄層を挟在している。
図3−2−38−5に由比地区の推定地質断面図を示す。
前述したように、入山断層の南方延長は、YU−2とYU−3間の測点600m付近に推定されるが、ボ−リングで確認した沖積層中のシルトは水平に連続しており、入山断層による変位は認められない。
図3−2−38−1 由比地区ボーリング柱状図(YU−1)
図3−2−38−2 由比地区ボーリング柱状図(YU−2)
図3−2−38−3 由比地区ボーリング柱状図(YU−3)
図3−2−38−4 由比地区ボーリング柱状図(YU−4)
図3−2−38−5 由比地区推定地質断面図
(4)試料分析
ボーリングコアから採取した試料を用いて、沖積層に挟在されるシルトを対象に微化石分析(3試料)を実施した。なお、別冊資料集にデータシートを添付した。試料はYU−1の深度約28m、YU−3の約4mと約6mに挟在されるシルトから採取したものを用いた。
分析結果では、産出した花粉は、メタセコイヤ近似種を含む再堆積化石がほとんどであり、シルトの堆積年代を得られるような花粉は産出していない。
(5)まとめ
調査の結果から、調査地では入山断層は沖積層に変位を与えておらず、完新世(約1万年前)以後活動していないと推定される。
また、浅層反射法探査で認められた基盤岩の上面の比高差は、沖積層堆積時の浸食によるもの推定される。