(8)由比町阿僧地区

本調査地では、調査地付近に広がる低位段丘堆積物以後の入山断層の活動履歴を把握することを目的として、比抵抗映像法探査100m、ボーリング調査1孔(AZ−1、L=15m)とトレンチ調査(小規模)1箇所を実施した。以下にその結果を示す。

(1)地形・地質調査結果

図3−2−29に調査地付近の地表踏査結果図を示す。

調査地付近は、由比川河口付近に位置し、由比川流域に広く分布する低位段丘面の南端にあたる。

低位段丘面は、由比川中流域の室野では現河床からの比高が約30〜40mであるが、本調査地付近では約10〜15mであり、現河床の勾配に比べ急勾配となっている。

空中写真判読の結果、由比川の西側に断続する急斜面と、東海道新幹線の南に認められる低位段丘面中の低崖を、入山断層による変位地形であろうと判断し、調査地を選定した。

図3−2−30に調査地付近の平面図を示す。

(2)比抵抗映像法探査結果

図3−2−31に比抵抗映像法結果図を示す。なお、測線位置は図3−2−30に示す。測線は東海道新幹線の影響を考え、トレンチ調査箇所より北方にずらして実施した。

 測点25〜30m間に明瞭な比抵抗値分布の差が認められ、判読したリニアメント位置と一致しているため、ここを断層位置と推定した。また、段丘堆積物は層厚約7〜8mの低比抵抗部として認められ、ローム層または粘性土が分布しているのではないかと推定された。

(3)ボーリング調査結果

図3−2−32にボーリング柱状図を示す。なお、ボーリング柱状図とボーリングコア写真は別冊資料集に添付した。

ボ−リング調査により確認された地質は、蒲原礫層と段丘堆積物である。段丘堆積物は褐色砂礫を主体とするが、青灰色を呈するシルトを多く挟在し、一部腐植土の薄層を挟む。

図3−2−30 阿僧地区付近の地表踏査結果図(縮尺1/2,500)

図3−2−31 阿僧地区比抵抗映像法結果図(縮尺1/500)

図3−2−32 阿僧地区ボーリング柱状図(AZ−1)

(4)トレンチ調査結果

図3−2−33−1にトレンチ展開図を、図3−2−33−2図3−2−33−3図3−2−33−4にトレンチスケッチ図を示す。

トレンチに認められた地質は、蒲原礫層、段丘堆積物と崖錐堆積物である。段丘堆積物の下位に同時期の崖錐性の堆積物が認められる。

トレンチでは入山断層は認められず、蒲原礫層と段丘堆積物の不整合境界が認められた。段丘堆積物中には、断層活動に伴うような地層の変形は認められなかった。

蒲原礫層中に入山断層とほぼ直交する方向の小断層が認められるが、上位の崖錐性の堆積物に変位を与えていない。

図3−2−33−5に調査地付近の地質断面図を示す。

トレンチで確認された段丘堆積物と同時期の崖錐性の堆積物は、ボーリングAZ−1孔の深度5m付近に認められるシルトに連続すると考えられる。

トレンチ中に蒲原礫層が分布することより、入山断層はトレンチよりさらに西方にあるものと推定されるが、その影響は本堆積物中には及んでいない。

(5)試料分析

ボ−リングAZ−1で採取された試料を用いて、微化石分析(2試料)と地質年代測定(1試料)を実施した。なお、データシートは別冊資料集にまとめて添付した。

微化石分析は、ボーリングで確認された2層のシルトについて実施したが、堆積年代を示すような化石は認められなかった。

地質年代測定は、下位のシルト中に挟在される腐植土を用いて測定したが、測定値は約7,900年前である。この年代値は地形面から推定した時代(立川期)より新しい。

試料とした腐植土は層厚5cm以下の薄層であり、地下水の汚染などの影響により、段丘堆積物の年代値を表していないものと考えられる。

図3−2−33−1 阿僧地区トレンチ展開図(縮尺1/100)

図3−2−33−2 阿僧地区トレンチスケッチ図(北壁)

図3−2−33−3 阿僧地区トレンチスケッチ図(西壁)

図3−2−33−4 阿僧地区トレンチスケッチ図(南壁)

図3−2−33−5 阿僧地区推定地質断面図(縮尺1/500)

(6)まとめ

調査の結果、変位地形と判読したリニアメントは断層崖ではなく、低位段丘堆積物の堆積時に形成された浸食崖であることが確認された。

入山断層と低位段丘堆積物との直接的な関係は把握できないが、この付近で他に変位地形として判読できる地形要素も認められないことから、入山断層はトレンチのすぐ西側に付近に位置するものと推定される。仮にそうであるとすると、東海道新幹線以南の段丘面に約5mの比高差があることから、平均変位速度は約5m/2万年=約0.25m/103年と推測される。