(1)地形・地質調査結果
地表踏査の結果、蒲原町善福寺付近の4箇所で断層露頭が確認された。分布する地質は、断層を境に東側が岩淵安山岩類、西側が蒲原礫層である。断層は破砕幅約1m程度の破砕帯からなり、全体に高角度の逆断層である。 善福寺には段丘地形が認められるが、その段丘面に変位地形は認められない。
(2)浅層反射法探査結果
浅層反射法探査は、蒲原町の海岸付近に東西に広がる沖積層の基底面の形状および善福寺断層の位置を把握することを目的として、図3−2−40に示す蒲原海岸の1km区間で実施した。
以下に、解析処理のパラメータとその結果について記述する。なお、解析処理例は別冊資料集にまとめて添付した。
@オリジナル波形
別冊資料集(2−46〜2−49)に発震点0,220,350,600,830,1000mのオリジナルデータ波形例を示す。
由比測線同様、オリジナル記録は、磁気テープにSEG−Yフォーマットにて収録したものを別途提出する。受振点480,485,950mは川の中に位置しており、地震計は設置されていない。
測線と平行に国道1号線バイパスが走っており、測線全体にわたって車両による低周波のノイズの影響が認められる。また、表面波、多重反射波も顕著に認められる。
Aフィルター処理
別冊資料集(2−50〜2−53)に発震点0,220,350,600,830,1000mの静補正およびバンドパスフィルター処理まで行った結果の記録例を示す。
静補正の最終データは、標高10mとした。バンドパスフィルターの通過周波数帯域は30〜150Hzとした。
図3−2−39 蒲原海岸調査地位置図(縮尺1/10,000)
図3−2−40 蒲原海岸浅層反射法探査測線位置図(縮尺1/2,500)
このバンドパスによって、表面波及び通過車両によるノイズは大きく軽減されたが、反射波は多重反射波の影響により、はっきりとは確認できない。
別冊資料集(2−54〜2−64)にデコンボリューションおよびAGC処理まで行った結果の記録例を示す。
デコンボリューションには、スパイキングデコンボリューションを用いた。デコンボリューションのオペレータ長を40msec、80msec、120msecと変えて、それぞれの結果によるショット記録を比較した。ノイズは0.1%とした。
この結果、オペレータ長は80msecが最適であると判断された。またAGCのオペレータ長は200msecとした。この処理により、多重反射波が除去され、受振点0〜500mでは100msec程度、500m以降では200msecまで有意な反射波が認められる。
B速度解析・CDPスタック
各種フィルター処理を施した結果にCDPソーティングを行った後、速度解析を行った。
別冊資料集(2−43)に速度解析により求めた速度テーブルを、別冊資料集(2−39)にその速度テーブルを用いてCDP重合を行った結果(時間断面)を示す。
受振点0〜500mにかけては、200msecまで反射波が認められるが、連続性はあまり良くない。一方、受振点500m以降では連続性の良い反射波が200msecまで認められる。
図3−2−41−1および別冊資料集(2−40)にマイグレーション処理結果を示す。 本測線の時間断面に、スタック速度から推定した区間速度を用いてマイグレーションを行うと、測線の両端でひずみが著しく現れた。そこで、マイグレーションに用いる速度は全測線においてコンスタントとし、いくつかの速度値を用いてマイグレーション速度のテストを行った。マイグレーションによるデイフラクションパターンの解消とひずみの現れかたの兼ね合いを観察し、マイグレーションに用いる速度には1,600m/secが最適と判断した。
C深度変換
別冊資料集(2−41)に時間断面(マイグレーション前)に対し深度変換処理を行った深度断面を、別冊資料集(2−44)に深度変換に用いた速度テーブルを示す。
ボーリング調査のデータがないため、トモグラフィー的速度構造から推定した場合と、スタック速度から推定した場合の区間速度をそれぞれ用いて深度変換テストを行った。
その結果、どちらの場合でも深度断面に大きな相違点が認められないため、本測線ではスタック速度より推定した区間速度を採用した。
深度変換結果(深度断面)をみると、受振点0〜500mでは深度100m程度まで顕著な反射波が認められる。深度100〜200mにかけては、連続性は良くないが反射波が若干認められる。受振点500m以降では、反射波のパターンが変わり、連続性の良い反射波が深度200m程度まで認められる。
別冊資料集(2−42)にマイグレーション後の時間断面に対し、深度変換処理を行った結果を示す。
図3−2−41−2にマイグレーション後深度断面をカラーで振幅の表現をしたものを示す。
図3−2−42と別冊資料集(2−66、2−68)に走時曲線と初期速度モデルを示す。また、別冊資料集(2−69)にトモグラフィー解析の解析結果を示す。
別冊資料集(2−67)に、解析結果をモデルとしてコンピューターを用いて計算した理論的な初動走時(理論走時)と、観測走時を示す。
反射法による時間断面から、基盤内にも何枚かの層構造が認められる点を考慮して、比較的深部まで初期速度モデルを与えたため、由比測線に比べると理論走時と観測走時間にばらつきが見られるが、解析結果は観測走時曲線をほぼ満足しているといえる。
図3−2−42から、基盤岩上面を2.0km/secとすると、受振点0〜500mでは標高約−20mでほぼ一定であるが、受振点90〜170mではやや深くなっている。受振点500〜1000mでは全体的に基盤深度が深くなっており、最深で約50m程度となっている。この基盤上面の変化の形状は、反射法による時間断面の最上部の反射面に相当している。
図3−2−41−1 蒲原海岸浅層反射法解析結果図(時間断面) (縮尺1/5,000)
図3−2−41−2 蒲原海岸浅層反射法解析結果図(深度断面) (縮尺1/5,000)
図3−2−42 蒲原海岸の走時曲線及び速度構造モデル
今回用いた、屈折波によるトモグラフィー的速度構造解析は、地下浅部の複雑な構造を比較的精度良く求めることができる。
反射法による時間断面を深度断面に変換する際、浅部構造はトモグラフィー解析による速度構造を用い、深部構造は反射法のCDPスタック速度を用いることによって、最適な速度構造を与えることができると考えられる。
D探査結果
図3−2−41−1、図3−2−41−2に示すように、受振点400m付近を境に反射面のパタ−ンに違いが認められ、この付近を境に地質および地質構造に差があるものと推定できる。また、受振点550m付近にも反射面の不連続が認められる。
図3−2−42に示すように、速度構造モデルより基盤岩の上面は2.0km/sec付近とすると、標高−20m程度でほぼ一定である。所々に標高−30〜−50mまで基盤岩上面が深い部分(受振点100m付近、500m付近および900m付近)が認められるが、これらは現在の小河川の河口とほぼ一致する。
(3)まとめ
図3−2−43に蒲原海岸の推定地質断面図を示す。反射面のパタ−ンの違いから、明瞭で水平な反射面が推定される区間は岩淵安山岩類、不明瞭な反射が検出される区間を蒲原礫層と推定すると、反射面の乱れる測点470mまたは測点590m付近に断層が推定される。
どちらの推定断層付近とも沖積層の基底に高度差は認められない。
図3−2−43 蒲原海岸推定地質断面図(縮尺1/5,000)